第69話「三周目〜逸る心〜」
大広間に残された心乃香と白は、呆然と、斗哉が行ってしまった方を見ていた。
しばらくして白が自分を取り戻し、心乃香に向き直った。
「心乃香様、お話がございます」
***
斗哉はいつの間にか、出雲大社の境内を走っていた。四の鳥居を抜けて、松の参道を走る。
苦しい――息ができない。でも、今の自分には走ることしかできない。
正門の鳥居を抜け、神門通りに出る。もうすぐ駅が見えるという所で、斗哉は気が付いた。
(しまった! 慌てて、荷物全部置いて来た!)
自分に急ブレーキを掛けて、今来た道を振り返る。正門から、トコトコ歩いて来る人影が見えた。その人影は、荒い息を整えながら、立ち止まっている斗哉の元にやって来た。
「何も持たずに、どうやって帰るつもり?」
心乃香が、斗哉のリュックを差し出した。
***
「わ、悪い……」
斗哉は、心乃香が一緒に来ていたことも忘れていた。荷物を慌てて受け取る。
「始発が来るまでまだ少しある。焦ったって、どうしようもないでしょ」
「だけど!」
その更に先を言おうとして、斗哉はとまどった。そうだ……こいつの言う通り。焦ったって仕方ない。でも逸る気持ちが抑えられなくて……
(くっそ……泣きそう……)
一人なら、泣いていたかもしれない。でも、こいつの前で絶対泣きたくない。斗哉は感情を必死で抑え込んだ。そうすると、足りなかった酸素が頭に供給され、不思議と頭が冴えて来た。
「ごめん、そうだよな……」
心乃香は、仕方ないなと呆れながら斗哉を見ると、ふっと微笑んだ。
***
斗哉は復路のルート検索をしながら、心乃香の膝の上で、スヤスヤと眠る黒猫を見遣った。
「電車って、動物乗せるのに、何か許可いるのかな?」
「あ、クロのこと? 大丈夫よ。この子、普通の人には見えないらしいから。白が言ってた」
「へー? 神様だからか? いや、怨霊か……本当騙されたわ」
はあっと、斗哉は溜め息を吐いた。心乃香は、黒猫の背中を撫でながら呟いた。
「神も怨霊も、本質はそんなに変わらないと思うけどね……」
「え⁉︎ ……いやいや、ぜんぜん違うでしょ⁉︎」
「そうかな?」と心乃香は、黒猫の背中を優しく撫でていた。斗哉はその黒猫の様子を見て、少しイラっとした。
(……くっ、こいつ……如月の膝の上で、気持ちよさそうにしやがって……)
つづく
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