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第65話「三周目〜神のおわす場所〜」

「さて……さっきの『お待ちしておりました』って、どう言うことなの?」


 散々蕎麦を堪能した後、蕎麦湯を飲みながら、心乃香は白に質問を投げかけた。


「少々困ったことがございまして……此方に、一緒に着いて来ていただけますか?」


 そう言うと、白はゆるりと立ち上がり、広間から出て二人を先導した。


 連れて来られたところは、ある部屋の前で、白がその部屋の妻戸(つまど)を開けると、中から凄い臭いが漂ってきた。


(さ、酒臭っ‼︎)


 

 斗哉は思わず顔を背けた。


 部屋の中は、大量の酒樽や酒瓶で溢れかえっており、その中央に黒い物体が、ぐーすか高イビキをかいて寝ている。


(なっ‼︎)


 あの『黒猫』だ!


 斗哉はその黒猫の醜態を見るや、怒りが込み上げてきて、白が止めるのも聞かず、黒猫に飛びかかろうとした。


 瞬間、斗哉は部屋の外に、何かの力で跳ね飛ばされる。


「うわっ!」


「ちょっ、大丈夫?」


 心乃香は、慌てて斗哉に駆け寄った。


 白はあーあと、額に手を当て、頭を振った。


「危のうございます。だから、お止めしましたのに……」


「痛てて」と斗哉は心乃香に支えられ、何とか身を起こした。


「これ、どーゆうことだよ⁉︎ 説明してくれ!」


***


「事の発端は数日前です。ふらっとクロ様は此方にいらっしゃいました。調べ物があると……」


 白は淡々と事の経緯を話し出した。斗哉と心乃香は息を呑んで、その続きを待った。


「で、それに飽きてしまい、酒を大量に呑んで今に至ります」


「は⁉︎」


 斗哉はそのロクでもない経緯に、思わず白に突っ込んでしまった。


(こっちは散々悩んでここまで来たんだぞ! なのに当の本人は、酒を呑んで酔っ払い潰れていた訳だ? いいご身分だわ!)


 沸々と、怒りが込み上げてきていた斗哉に代わり、心乃香が白に訪ねた。


「で、私たちを『お待ちしておりました』って何なのよ?」


「お二人はクロ様と(ゆかり)がある。地元の方に、クロ様を連れ帰って欲しいのです」


「え?」


「大変迷惑なので」


 白が冷ややかに、その言葉を発した。


「でもこの黒猫、行きは神道? て言うのを通って来たのよね? 私たちが普通に連れ帰って平気なの?」


「その点は心配なく。それにこのような酔っ払われた状態では、神道を通っていると何処ぞに落ちて、そのまま何処かに行ってしまいかねません。二日酔いの状態でも危ないと思います。それに……」


 白は顔を覆う布の下で、ニコリと笑ったようだった。


「お二人も、クロ様に早く、戻っていただきたいんじゃないですか?」


 斗哉と心乃香は顔を見合わせた。確かに……


『分かりました』と二人は嫌々返事をした。

 


つづく

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