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第62話「三周目〜雨〜」

 斗哉が祈りを解くと、雨の降りが酷くなって来た。軒下に居ても、地面に反射した雨粒が飛んで来る。次第に雨の勢いで、視界が真っ白になって来た。


(通り雨だろうけど……)


 斗哉は、トイレに行っている心乃香が心配になった。


(このまま、もし如月にも会えなくなったら……)


 おそらくどこかで、彼女も雨宿りしてる。雨が止むのを、きっと待ってる。でも――


 斗哉は逸る気持ちを抑えられず、拝殿の軒から駆け出した。

 視界は、信じられないくらい真っ白に染まり、真夏なのに雨のせいか、肌寒い――いや寒いくらいだ。


 途中、斗哉は自分がどこを走っているのか、分からなくなった。自分は馬鹿だ。雨が止むまでやっぱり待っていれば良かったと、ぐっと目を閉じる。


 彼女と行き違いになるかもしれない。自分はいつもそうだ。行動してから、そのことにいつも後悔してると、斗哉は瞼の奥に重みを感じた。


(でも、止められない――)


 その時、斗哉の耳の奥で鈴の音が聞こえた。


 斗哉は、この鈴の音に聞き覚えがあった。カッと目を見開く。


(まさか――)


 夢中でその音のした方に走る。


(お願いだ! 今度こそ――)


 前方に、赤い傘をさしている人影が斗哉の視界に入った。


「!」


 斗哉はその人影に向かって走り、その人影を捕まえた。その勢いで、赤い傘が吹き飛んだ。


「なっ! 何? どうしたの、八神⁉︎」


 斗哉は掴んだ手を引き寄せて、そのまま心乃香を抱きしめた。


 斗哉は何も言わない。ただ心乃香の存在を確かめるように、更に抱きしめる腕の力を強めた。


***


(……な、何これ……どうして、こんなことになってるの⁉︎)


 何が何やら分からない心乃香は、斗哉の体温を感じ、もうどうしていいか分からなかった。


 こんなに密着されては、関節技も決められない。何より斗哉の力が強くて、振り解けない。


(それに――)


 斗哉の体の震えが伝わって来た。心乃香はしばらく、斗哉に抱きしめられたままでいたが、観念したように、そっと斗哉の背中に腕を回した。


「何か、あったの?」


 すると程なくして、斗哉は心乃香の肩に埋めていた顔を上げた。泣いていた。


「……え? 何? 本当にどうしたの?」


「ごめん。何でもない。……でも、良かった……」


 そうホッとしたように、斗哉は自分の額を心乃香の額に充てがった。


挿絵(By みてみん)


 その時、二人の耳の奥で鈴の音が鳴った。確かに聞こえた。次の瞬間、真っ白に染まった空に激しく稲光が光り、雷が落ちた時のような爆音が辺りに響き辺り、二人は驚いて反射的に目を瞑った。


 二人が目を開けた時、そこは自分達の知っている出雲大社の境内ではなかった。少なくとも二人はそう感じていた。


 真っ白な空間に、大きな石造りの鳥居が二人の目の前にそびえ立っていた。



つづく

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