第61話「三周目〜出雲大社〜」
二人は出雲市に着き、さらに電車を乗り継ぐ。まだ外は明るい。真夏の日差しだ。だが段々と車窓から見える景色が変わって来た。
最後の乗り継ぎ駅なんか、景色どころか昔へタイムスリップして来たような、そんな情景だと二人は感じていた。
最後の駅に着いた時、ちょうど雨が降って来た。
「マジかよ……今日雨降るなんて、予報になかったじゃん」
心乃香が、リュックから折り畳み傘を出した。
「神社参拝で雨が降るのは、縁起がいいって言われてるのよ。神様が歓迎してくれてるんですって」
***
駅から、心乃香が持って来ていた折り畳み傘に、二人で入りながら歩く。雨が当たらないようにすると、自然と肩が触れ合う。
斗哉はドキッとして、以前こんな風に一緒に傘に入り下校したことを思い出した。
あの時のことが、随分昔のように感じられた。一度目は心乃香のことを、何も分かっていなかった。二度目は彼女の本性が、嫌というほど分かった。
でも、本当に分かっていただろうか?
強固なプライドに身を包みつつ、孤高を信条にしているが、彼女の本質は他人との関わりを、蔑ないがしろにできないのだ。
自分なんかより、よっぽど他人との繋がりの大切さが分かってる。斗哉は隣の心乃香を、横目で見ながらそう考えていた。
「如月……」
「何?」
「……あいつらのこと、心配してくれてありがとう」
心乃香はギョッと、斗哉の方を見遣った。
「……いや、別に心配してないから。ただ、勝手に消えられて、迷惑ってだけだから!」
そう言い捨てると、ふん! とそっぽを向いた。斗哉はぽっと炎が灯るように、心が暖かくなった。
***
出雲大社の境内に入り、斗哉は空気が変わった気がした。こんな真夏なのに、昼間なのに雨のせいもあるかもしれないが、肌寒いのだ。
空気がピンと澄んでいる……斗哉はそんな風に感じた。
二人は祓社を通りすぎ、松並木の参道を進む。途中、溜池や水社、何かしらの像があり、侵入できるところまでは行ってみたが、黒猫は見当たらない。
だいぶゆっくり丁寧に境内を散策したが、何の手がかりも見つけられない。拝殿に着く頃には、斗哉は心身共に疲れ切っていた。
(だいたいこれじゃ、ただ神社を参拝してるのと同じだ。相手は神様だ。簡単に見つけられるものじゃ、ないのかもしれない……)
もう日が傾きかけている。そろそろここを出ないと、今日中には帰れなくなる。斗哉は西の空を見つめながら考えていた。
(自分一人なら、野宿でも何でもするつもりだけど、如月にそんなことさせられない)
斗哉は背後の大きなしめ縄を携えた、拝殿を見上げた。
(もう一度だけ……もう一度だけ……会わせて下さい)
そう祈りながら、賽銭箱に小銭を投げて手を合わせた。
つづく
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