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第60話「三周目〜本が好きな理由〜」

 二人が岡山に着いたのは、お昼より少し前で、ここから特急に乗り換えが必要だった。更にその後、出雲大社に行くまでは何種類かの電車を乗り継ぐ。


 斗哉はこんな長距離の移動を一人でしたことがなく、本当にスマホがある時代に、生まれて良かったと思った。これがなければ、こんな所まで一人で来るのも苦労しただろうし、心細かったかもしれない。


(……いや、一人じゃ、なかったか……)


 斗哉は後ろを、物珍しげに見渡しながら着いて来る、心乃香の方を振り向いた。


「何?」

「何? じゃねえよ! 何だよそれ⁉︎ いつの間に買ったんだよ!」

「桃シェイク。岡山って行ったら、桃でしょ。あげないわよ」

「いらねーよ!」


(……本当に、マイペースな奴)


 こいつを見てると、すべてがどうでも良くなってくると、斗哉は呆れて溜め息を吐いた。


***


 ここから出雲市まで約一時間。


 電車に揺られてると、眠たくなってくるのはどうしてだろうと、斗哉はウトウトしてきたが、心乃香はリュックから文庫を取り出すと、本を読み始めた。


 斗哉は書籍はもっぱら電子書籍派だ。電子書籍なら何処でも読めるし、がさばらない。


「如月って、本当に本好きなのな」


 心乃香はその問いに、すぐ答えなかった。しばらくすると、本を愛おしそうに見つめ、ボソリと呟いた。


「本を読んでいる時は、世界から切り離されるから」


 世界からの乖離(かいり)――他者と関わりたくないと言う拒絶――


「如月は、何で着いて来たの? ……オレたちのこと、大嫌いなんだろ? 許せないんだろ? ……だったら本当は、放って置きたかったんじゃないのか?」


 斗哉は疑問に思ってたことを、一気に吐き出した。

 

「……私……」


 心乃香は、窓の外を見ながら呟いた。


「いつか何処かの孤島に移住して、一人でひっそり好きなことだけやって暮らしたい」


「は?」


「でも今は、無理なのは分かってる。親の扶養下にいるし、中学生が今の世の中、一人でなんか生きていけない」


「……親と仲悪いとか?」


「そういうことじゃないのよ。全てのしがらみから解放されたいってこと。いくら他人と関わりたくないからって、陸の孤島にでも一人で暮らさなきゃ、どうしたって関わるってことよ」


「どうして、そんなに関わりたくないんだよ?」


「他人と関わると、その人に気を遣ったり意見を合わせたり、嫌われないようにしたり……そういうことが、煩わしいから」


「それは、仕方ないだろ……他人と関わるってそう言うことじゃん。それに一人って寂しくないか?」


「は! 出た、陽キャの理屈。一人だと寂しいだろって決めつけ。……寂しくなんかないわよ、別に。せいせいするわ」


 心乃香は斗哉を睨みつけると、静かに呟いた。


「他人に傷つけられたり、傷つけたりするくらいなら、一人の方が、ずっといい」


「……それじゃ、何で……」


「今の普通に中学生やってる状態じゃ、どうしたって他人に関わる。五十嵐や菊池だってクラスメイトとして、私に関わってる。関わってる以上は……どうしたって、私の中から排除できない。消えたことが……私の頭から離れない」


「……それって」


 簡単に言えば、二人を心配してるってことじゃないかと斗哉は思った。心乃香が他人と関わりたくないと言う裏には、他人が自分にとって、大きな存在だからなんじゃないかと感じていた。

 


つづく

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