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第57話「三周目〜黒猫の行方〜」

「さて、どこまで話したかしら?」


「二回目の、如月が消えてたって所までだ」


「この二回目の『後日、夢の中で黒猫と会う』って何? どういうこと?」


 心乃香は鋭い目で、ノートを指差した。


「何月何日だったか、正確な日付は思い出せない。ただ今思うと、あれは絶対現実じゃない。あの鳥居はあったけど、周りは真っ白な空間だったんだ」


 斗哉はあの時、如月が消えたのは自分のせいじゃないかと言われて、どうしていいか分からなくなったことを思い出す。


「黒猫にこっちに来かかってる、相当今ヤバイ状態だって言われた。もしかしたら、オレ、あの世に行きかかってたのかも。それで……」


 斗哉は口を注ぐんだ。この先は心乃香に聞かれたくない。これ以上情けない自分を、知られたくなかった。


「……? それで何? 神社で会わなかったって言うの、凄く重要な気がする。思い出したこと、全部話して」


 斗哉はそう促され、答えるしかなかった。


「如月が消えたことが辛いなら、如月のこと忘れればいいって、方法を聞いてきたって……」


「聞いてきた? 何を? どこで?」


 心乃香は身を乗り出して、斗哉に迫った。


「確か……そうだ、出雲って言ってたかな? 何か神道? を通って行ってきたって。お前と買った御守りを代償に、如月との記憶を消してやるって、言ってた」


 それを聞いて心乃香は目を丸くして、次には何かに納得したようだった。


「もしかしたら、あの猫、今神社に居ないのかもしれない」


「どう言うことだ?」


「出雲に居るのかも」


「え? 出雲? 出雲って、島根の出雲? ……でも出雲のどこに……」


「馬鹿ね。神が行く場所って言ったら出雲大社でしょ⁉︎」


***


「出雲大社って、何か有名な神社だよな? 神が行くってどう言うことだよ?」


「あんた、何も知らないのね。もしくは私をからかってるの? 十月を神無月って言うでしょ? 出雲では十月を神有月って言うのよ。十月は各地方の神様が皆、出雲大社に集まるから、出雲以外の地区では『神様が居無い月』=『神無月』って言うの。言うなれば、出雲大社は神様たちの総本山ってとこね」


「へー、そうなんだ? よく知ってるな、そんなこと。まったく知らんかった。てか、今七月だぜ?」


「でも、出雲に行ったってそう言うことじゃないかしら? 今あの神社で黒猫に会えないのは、留守のせいで、戻って来れば会えるかもしれないわ」


「いつ?」


「それは分からないわよ」


「……そうだよな」


 斗哉は希望がたたれて少し項垂れたが、すぐに心乃香に向き直った。


「如月、ありがとう。少し希望が見えてきた。お前が居てくれなかったら、こんな考えに、至らなかったと思うし……」


「……別に、あんたのためじゃないわよ」


 心乃香はそう吐き捨てると、そっぽを向いた。

 ツンデレかよ、と斗哉は可笑しくなった。


 夜も大分更けてきていた。家まで送ると斗哉は申し出たが、心乃香は頑なにそれを断った。


「あんた、顔色まだ酷いわよ。そんなフラフラな状態で送られても迷惑よ。今日はちゃんと休みなさい。ピザ、まだ半分残ってるから、食べていいわ。じゃあね」


 心乃香はそう言い残すと、八神家を出て、暗闇の中に消えていった。斗哉は心乃香が見えなくなるまで、その場で見送った。


 斗哉は誰も居なくなった居間のソファーに、ぐったりと持たれ掛かった。半分だけ綺麗に残されたピザを見て思った。


(……Lサイズのピザを頼んだのは、きっと始めからオレに半分食べさせるためだ)


 憔悴しきった自分を見て、心配したのだろうと斗哉は考えた。


(だったら、始めからそう言えよ……)


 斗哉は心乃香の天邪鬼ぶりに、素直じゃないなと可笑しくなって、数日ぶりにフフッと笑った。



つづく

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