第56話「三周目〜小休止〜」
考えが煮詰まりすぎて、心乃香が斗哉の家に来てから大分時間が経っていた。
(……でも、ここで帰るわけに行かない。まだ何の解決法も浮かんでいない)
それにこんな状態の斗哉を、とても放って置けないと心乃香は思った。足掻いても足掻いても報われない虚しさ。その気持ちが痛い程分かるのだ。『弱者』は、そんな人間を、突き放すほどクズじゃない。
(……お腹、空いたわね……)
長時間読書をした時も、心乃香は大変お腹が空く。きっと脳と視力に、全エネルギーを持って行かれるせいだろう。
心乃香は、家に友達の家にいるから遅くなると連絡した。『友達』と文字を打っている時白々しすぎて、心乃香は吹き出しそうになった。
また母が「心乃香が友達の家に、お呼ばれする日が来るなんて」と泣き出すかも知れないと、心乃香に少し罪悪感が生まれた。
何で毎度毎度こんな嘘を親につかねばならないのかと、陽キャと絡むとろくなことがないと、心乃香は心底思った。
そう思うと心乃香はまた斗哉に腹が立って来て、「ピザ頼んでいい?」と無遠慮に斗哉に言い放った。流石の斗哉も驚いたが、止める間もなく心乃香はピザ屋に注文してしまった。
***
ピザを待っている間、心乃香は「少し休憩」と眼鏡を外して、ソファーに寝転んだ。
自由すぎる――初めて来たクラスメイトの、しかも男の家で、こんなに図々しく出来るものなのかと、斗哉は心乃香に友達がいない理由が分かった気がした。
しかしその心乃香の自由すぎる行動のお陰で、斗哉の鬱々としていた感情は、少し軽くなっていた。
しばらくしてインターホンが鳴ると、心乃香はソファーを飛び起きて、ピザを受け取りに玄関に出た。
箱を開けると、Lサイズのピザが入っていた。……二人でこんなに食えないだろと斗哉は文句を言ったが、私が代金を支払ったんだから、あんたになんか一切れもあげないわよと、心乃香はピザを頬張り出した。
自分で全部食う気か、信じられない。しかもLサイズ……こんな細いのに、とんだ大食漢だと斗哉は呆れたが、「人を見た目で判断すると痛い目にあう」という、以前の心乃香の言葉が斗哉の頭を過った。
(本当、人は見掛けによらないわ……)
つづく
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