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第52話「三周目〜八神家〜」

 八神の自宅は、学校からさほど遠く離れてないところにあり、とあるマンションの一角にあるようだった。セキュリティバリバリの高級マンションでなくて良かったと、私はホッとした。

 もしそのようなところだったら、もう八神の家に辿り着くまでに臆していただろう。


 男子の家どころか、女子の家にも、他人の家に上がったことがない。親戚の家ですら緊張するくらいなのだ。自分にしたらここまで来たことすら、大変な勇気がいることだった。


 私は八神の家のドアの前に立つと、震えている体を落ち着かせる為、まず深呼吸する――


 何で自分が、こんなことをしなければならないのかと言う、八神への恨み言が頭をよぎる。もし最悪なことになっていたら許さない、絶対許さない――


 私は意を決して、八神家のインターホンを押した。


 何の反応もない――


 私は湧き上がって来る不安を掻き消すように、もう一度インターホンを押した。


 誰も出ない――


 もし、八神が本当に体調が悪いなら、本人だけでも自宅にいる筈だ。もしくはいるのだが、体調が悪すぎてインターホンに出られない、それとも、病院に行っていて誰もいないのか……


 その場合どうしようもない。でも、もしそうでなかったら? 八神の連絡先など知らない。自宅の場所を聞いた時、家電の番号も聞いておけば良かったと、私は後悔した。


 私は近所の迷惑を考えず、ドンドンと乱暴に八神の家のドアを叩いた。


「八神! 居ないの⁉︎ どうしたの⁉︎ 大丈夫なの⁉︎」


 何の反応もない。これは自分の手には余ると思った。とにかく担任に連絡して、八神の家のことを相談しようと、スマホで学校の電話番号を確認しようとした。


 その時――


 キィッと、力なく八神家の玄関のドアが開いた。その薄暗い隙間から見えたのは、変わり果てた姿の八神だった。


***


「……如月?」


 姿を現した八神の顔色は大変悪く、まるで生気がない。ゾンビにでもなったと言われても、疑わなかっただろう。ここ二日で、八神は何十年も老けこんでしまったかのようだった。


「……ちょっ、ちょっと、あんた大丈夫なの⁉︎」


 八神は、何か言おうとしてふらついた。私は慌てて八神を支えた。


「オレ……どうしたら……」


 八神は定まらない視点で、譫言(うわごと)のように呟いた。


***


「両親が消えた⁉︎」


 私は八神を居間のソファーに座らせながら、八神から発せられた事実に、驚きを隠せなかった。


「どう言うこと? ちゃんと説明して」


「……昨日の朝起きたら、母さんが消えてたんだ。陸や将暉が消えた時と同じように。父さんに確認しても、そんな人知らないって言うし……」


 八神は俯きながら、頭を抱えて続けた。


「昨日は学校休んで、あの神社に行ってたんだ。一日中張ってたけど、あの猫にはやっぱ会えなくて。それで今日朝起きたら……」


 八神の声は震えていた。


「父さんも消えてた……スマホのデータからも、昔の写真からも、両親の存在が無くなってる。もう、オレどうしたらいいか分かんなくって……」


 八神は今にも泣き出しそうなのを、必死で堪えてるようだった。私は、他人がこんなに弱っている姿を見るのは初めてだった。

 八神のような人間でも、こんな風になってしまうものなんだと、その姿に親近感を覚えた。


 まったく自分とは、違う世界の人間のように思ってた。決して、分かり合えないと思っていたのに――


「とにかく、あんたお風呂入って来なさいよ」

「……え?」

「あんた、臭うわよ」



つづく

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