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第50話「三周目〜また明日〜心乃香side」

「ここら辺か?」


「この電柱のすぐ正面にあった筈なんだけど……」


「何で如月は、正確に場所が分かるんだ?」


「何でって、ここであんたが……」


 そこまで言って、私はハッとした。まさかそこで「あんたが死んだのだ」なんて言えない。


「とにかく、見当たらない以上、ないものはないんだし、私たち夢でも見てたのかもね」


「夢じゃねーよ。実際こんなわけが分からないことになってんだ、あの黒猫は絶対いたよ。前来た時も、随分探したんだ……何か、会うには条件があるのかも」


「条件?」


「あいつ自分を神様だって言ってたし、そう考えた方がポイだろ?」


「そう言えば、あの黒猫に会った時、鈴の音が聞こえた気がしたんだよね」


「鈴?」

 

 そのくらいしか、思い出せない。


「それじゃ、その鈴の音が聞こえた時じゃないと、あいつに会えないのかもな……こっちからは、どうしようもないじゃんか!」


 気まぐれは神の本質だ。人間の都合でどうにかなるものではない。地震や台風が人にはコントロールできないように。


「あ……」

「何?」

「そういえば、あいつと会う時、いつも日が暮れてた気がする」

「確かに……私もそうだったかも。日が暮れるまで待ってみる?」

「ああ……」


 日は落ちかけると、あっという間に暮れていく。私たちはそのまま夕日を眺めながら、静かにその時を待った。


 日が暮れた後も、しばらくそこで待っていたのだが、鈴の音が聞こえて来ることはなかった。


 私は八神に帰宅するように促された。確かに潮時かもしれない。ただこのまま帰ると、八神はいつまでもここに留まる気がして、自分を送るついでに、ちゃんと帰宅するように注意した。


***

 

 八神に送られて、二人で並んで歩く。


 どうしてこんなことになっているのかと、私は不思議な心持ちになった。もう二度と関わりたくない、関わるなと言っているのに、八神は本当に人の話を聞かない。図々しい。人の迷惑を考えない。


 これが『強者』の発想なのだ。自分の価値を信じて疑わない……腹立たしい……腹立たしいのに……


「如月……」


 黙って隣を歩いていた八神は、突然話しかけて来た。


「……何?」

「昼間のこと……ごめん」


 そう言う所……そう簡単に人に謝る所……本当に腹が立つ。『謝罪』と言うのは、もっと重いものなのだ。


「……私は、謝らないわよ」


 八神はその言葉に、呆れて笑っているようだった。だって私は悪くない――しかし、これは別の話だ。


「でも、送ってくれてありがとう」


 いつの間にか自宅前に着いていた。


「それじゃ、また明日」


 自然とその言葉が口に出た。別に八神を許したわけじゃない。でも八神の気に当てられて、こちらの気持ちも緩んでいたのかもしれない。


 明日もまた普通に会える――私はそう思っていた。



つづく

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