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第48話「三周目〜心乃香の予感〜」

七月十五日(火)


(……?)


 私は朝担任が出欠をとる中で、違和感を感じた。その違和感の正体に気付くのに、暫く時間が掛かった。


 寧ろ七月三日までの自分なら、気が付かなかったかもしれない。


(五十嵐がいない……?)


“五十嵐 陸”――私を告白ドッキリに嵌めようとした一人だ。あの悪巧みを聞くまで、自分の頭にまったくなかった人間。下の名前すら知らなかった。


 休みとか、そう言う話ではない。担任も誰も、五十嵐の名前が呼ばれないことに『気が付いてない』――

 


 ――何なの?どう言うことなの?


 その時突然、私は“八神斗哉”が死んだ時のことを思い出した。


***


 何かが起きている――だが、それが何なのか分からないし、自分にはどうすることもできない。


 八神が二限目前の休み時間に、五十嵐のことを聞いてきた時は正直驚いた。


 もしかしたら、他にもこの不思議な事象に巻き込まれてない、正気な人間がいるのかもしれない。いや、違う――


 間違いなく、この“八神斗哉”のせいだ。私は八神が死んだ時の不思議な体験のことを思い出し、間違いないと思った。


 もう二度と巻き込まれるのはゴメンだと、五十嵐なんて知らないと突っぱねることにした。


***


七月十六日(水)


(……⁉︎)


 昨日から引き続き、その存在がなかったように“菊池将暉”の名前が呼ばれない――


 まさか、五十嵐に続き菊池までも――


 明らかに、何かの強力な不可思議な力が働いている。こんな非常識なこと、あの喋る黒猫と会わなければとても信じなかっただろう。


 明日には、八神も消えるかもしれない――


 だが、どうでもいい。もうどうでも。


 死んであんな風に周りを巻き込むくらいなら、『消えた』方が全然いい。あいつらの親、友人知人らも悲しむことはないのだ。だって始めから存在していないのだから。


 私は必死でそう思い込もうとした。


***


 しかし驚いたことに、あの八神斗哉が昼休み図書室に乗り込んできた。


 あの二人が消えたのは私のせいだと、食ってかかってきた。何で奴だ。


 八神斗哉が、いや菊池も五十嵐もそうだが、こいつらは、他人の痛みにはまったく無関心なのに、身内に何かあると、被害者ヅラが酷いのだ。

 

 八神が死んだ時の、菊池と五十嵐の項垂れ方も腹が立つほど酷いもので、正直私はその身勝手さに吐き気がした。


 その怒りの感情が私の心を支配した。小学生の頃、体の大きないじめっ子の男子と、取っ組み合いの喧嘩をした時、次こんなことがあった時のために、護身術を身につけようと躍起になっていたことが、役に立った。


 見事、八神に関節技を嵌められた。女子の体育の必修に「護身術」を是非加えるべきだとそう思った。


 私はそんなことを考えながら、八神に捨て台詞を吐き、図書室を後にした。


 常に最悪のパターンを考える――


 典型的『弱者』の発想。


 私には『もっと酷いこと』になるかもしれないと言う、予感のようなものがあった。



つづく

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