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第47話「三周目〜また明日〜」

 裏手の道に面した階段――覚えがある。一回目、階段を降り切ったところに、猫の死体があり、再び階段を登ってその死体を埋めたのだ。


 オレはどこら辺だったかと、思い出そうとした。如月が「ちょっと、待ちなさいよ!」と声をかけながら追いかけていた。


「ここら辺か?」


「この電柱の、すぐ正面にあった筈なんだけど……」


「何で如月は、正確に場所が分かるんだ?」


「何でって、ここであんたが……」


 そこまで言って、如月は口を注ぐんだ。


「とにかく見当たらない以上、ないものはないんだし、私たち夢でも見てたのかもね」


「夢じゃねーよ。実際こんな訳が分からないことになってんだ、あの黒猫は絶対いたよ。前来た時も、随分探したんだ……何か、会うには条件があるのかも」


「条件?」


「あいつ自分を神様だって言ってたし、そう考えた方がポイだろ?」


「そう言えばあの黒猫に会った時、鈴の音が、聞こえた気がしたんだよね」


「鈴?」


 そう言えば……と、オレもその鈴の音に覚えがあった。確かにあの場所にたどり着く時、必ず鈴の音が鳴っていた気がする。


「それじゃ、その鈴の音が聞こえた時じゃないと、あいつに会えないのかもな……こっちからは、どうしようもないじゃんか!」


 神は気まぐれってやつか。あいつの気分次第ってことかよ――そう思いながら、暮れていく夕日にオレは目を遣った。もうすぐ日が沈んでしまう……


「あ……」

「何?」

「そういえば、あいつと会う時、いつも日が暮れてた気がする」

「確かに……私もそうだったかも。日が暮れるまで待ってみる?」

「ああ……」


 日は落ちかけると、あっという間に暮れていく。オレたちはそのまま夕日を眺めながら、静かにその時を待った。


 日が暮れた後もしばらくそこで待っていたのだが、鈴の音は聞こえてくることはなかった。オレは深夜まででも待つもりでいたが、如月をこのままにはしておけないと思った。


「鈴の音も聞こえてこないし、猫も現れない……もう遅いから、送るよ」

「大丈夫よ。一人で帰れるから」


 オレは、二回目に如月が消えてしまった時のことを思い出した。


「いや、送る。……お前にまで消えられたら……」


 あまりにオレが意気消沈しているように見えたのか、如月の口から発せられたのは、いつもの憎まれ口ではなかった。


「分かった。あんたも今日は、そのまま家に帰りなさいよ」


***

 

 如月を送る為、二人で並んで歩く。オレは不思議な心持ちだった。祭りの日のことを考えると、まさかこんな日がくるなんて、思ってなかったからだ。もう二度と、彼女と関わることはないと思っていた。


 一回目のフワフワした感情とも、三回目の虚しい気持ちとも違う。不思議な安心感のようなものを感じた。


「如月……」

「……何?」

「昼間のこと……ごめん」

「……私は、謝らないわよ」


 オレはそう言われて「そうでしょうとも」と可笑しくなって、自然と笑みが溢れた。


「でも、送ってくれてありがとう」


 そう言うと、如月は立ち止まった。その彼女の後ろに「如月」と書かれた表札が見える。


 こんなところに、彼女の家はあったのか――


「それじゃ、また明日」


 そう飄々と呟くと、彼女は玄関の先に消えて行った。


 オレはその『また明日』と言う言葉に、涙が溢れそうになった。



つづく

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