第35話「三周目〜花火〜」
「そろそろ、花火が始まるな。ここだと人多くて、ちょっと見づらいよな……移動する?」
「なら、ちょっと歩くけど、私いいところ知ってるよ?」
そう微笑んだ如月の顔は、どこか妖艶だった。思えばここで、如月は勝負を決める覚悟だったのかもしれない。
本堂の横道を抜けると、竹林の小道を通り、如月は申し訳程度に舗装された、階段の上を指差した。
「この先だよ」
階段はかなりの長さだった。下駄の如月を気遣いながら登った。薄暗くても分かる。如月の下駄の鼻緒の根元、親指の付け根が、赤くなっている。これは相当痛いはずだ。だか如月はおくびにも出さない。
自分の尊厳を守るため、絶対成し遂げなければならないという気概からだろう。
そんな――痛い思いまでして。
この十日間、如月のために心身共にすり減った。でもそれは、如月も同じだったんじゃないだろうか? 復讐することを考えて、オレのために心身をすり減らしてた。この十日間を、オレのために使わせてしまった。
こんなことがなければ、如月は平和に暮らしていただろう。もしかしたら本当に好きな男とでも、お祭りに来ていたかもしれない。
(……)
そうこう考えているうちに、頂上までたどり着いていた。夜風が気持ちいい。まさにその時、花火が夜空に咲き出した。綺麗だな……
お堂の奥に案内されると、ちょうど座れそうなスペースがあり、如月はふうっとそこに腰を下ろした。
「大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ。見て! 花火、すごく綺麗だね」
オレも如月に習って、隣に腰を下ろした。
花火の光に照らされた、如月の顔がすぐ横にある。ずっと見つめていると、それに如月が気が付いた。
「見ないの?」と小首を可愛らしく傾げて来る。しばらくして、如月が顔を近づけて目を閉じた。
(如月……お前、この時どんな気持ちで、目を瞑ったんだ?)
オレは一回目そうしたように、如月の唇に自分の唇を寄せた――
その時――
如月が肩を震わせながら、クククと笑い出した。
「ちょっとは楽しめた? 八神君」
如月はそう言いながら、目を開いた。
つづく
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