第34話「三周目〜二度目のお祭り〜」
七月十三日(日)
祭りの当日は見事に晴れて、待ち合わせの駅前は、沢山の人々で賑わっていた。皆浮かれている……いや、本来祭りというものは、そういうものなのかもしれない。そんな風に通り過ぎる人々を、オレはボーと眺めていた。
もうすぐ如月がやって来る。今日ですべてが終わる。思えば長い十日間だった。
そんな感慨にオレがひたっていると、聞き覚えのある声が自分に呼びかける。
「八神君、お待たせ」
そこには、浴衣姿の如月が立っていた。
(……)
普段の膨張した癖毛の髪を丁寧に結い上げ、可愛らしく鮮やかな飾りを刺して、薄水色の爽やかな浴衣に身を包んでいる。
眼鏡をしていないせいか、いつもより目が大きく見える。その瞳でオレの顔を覗き込んできた。
この気合いの入り方、オレを絶対出し抜くと言う相当な気概を感じる。
大体、一概に浴衣と言っても、着付けるにも準備がかなり必要だったろう。眼鏡を普段掛けているにもかかわらず、黒板を凝視していたことから、相当視力も悪いはず。
今、眼鏡をしていないと言うことは、恐らくコンタクト。普段していないのは、あまり合わないからだろう。それなのに自分を可愛く見せる為に、オレを騙す為だけに大変な根性だ。恐れ入るよ……。
(ま、可愛いなんて、絶対言ってやらないけど)
「じゃ、行こうか」とオレは如月に促した。
***
隣を歩く如月は「凄い人だね」と少し祭りの気に当てられたように、上ずって笑っていた。お祭り仕様の作り笑顔だろう。
不意に如月がふらつく。オレが腕を掴んで支えてやると「ごめん、歩き慣れなくって」と、ハハハと如月はすまなそうに笑った。
ドジっ子のフリだったのか? 本当その徹底した所、感心するわ。
オレはそのままスルリと、如月の手を握った。
「あ……いや、危ないからさ」
手を握られた如月はギョッとしていたが、暫くしてオレの手を握り返してきた。
(……あの時、めっちゃドキドキしてたな、オレ。マジウケるわ……)
オレは手から伝わる如月の温もりから、虚しさと切なさを感じた。
手を繋いだまま、神社内の参道に向かう。道の周りには沢山の屋台が出ており、華やかで、いい匂いがした。
売店には凄い人で中々近寄れず、流されるように、本堂の参道前の開けた所に出た。ここはまだ人混みがマシで、神社関係者が呼び込みをしている。
(……確か、ここで御守りを……)
オレは御守りを買うか迷った。一回目は買ったが、アレは如月と自分の縁を本当に結んでしまった。
これから告白ドッキリ返しを受けて、その後、彼女とはもう接触することはないだろうと考えると、縁をすっぱり切る為に、ここは御守りを買わない方が良いように思えたからだ。
大体如月だって、本当は自分との縁なんか結びたくなかったはずだ。ちらっと如月を見る。
「買う?」
オレは如月に判断を委ねてみた。すると、和かに如月は頷いた。
そう……どこまでも、オレを貶めたいわけだ。
つづく
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