前へ次へ
3/100

第3話「告白ドッキリーその3」

 荷物を図書室に運び終わり、オレがふうっと一息着いてた頃、如月が図書準備室から急いで出てきた。


「これ、お礼。良かったら飲んで」と如月はお茶のペットボトルを、オレに差し出した。そんなつもりじゃなかった。ただ荷物を運んでやっただけだ。


 こいつ本当に律義(りちぎ)だなと、ちょっと関心してしまった。今まで周りの人間で、こんな気遣いをしてくる奴はいなかった。


 なんだか少しくすぐったい。何なんだこいつ……。頭では素直に受け取った方が、好感度が上がると分かっていたのに、なぜかオレは、素直にそれを受け取れなかった。


「あ、お茶嫌いだった?」と如月は申し訳なさそうに俯いて、ペットボトルを引っ込めようとした。オレはそれをどうしてか見ていられなくなり、慌ててそのままペットボトルを(つか)んだ。


「いや、嫌いじゃないよ。ありがとう」


 そうお礼を言ったら、如月は柔らかく微笑んだ。その初めて見る如月の表情に、なぜだかドキッとした。


 次の瞬間、オレはハッと我に返った。今がチャンスと、すかさず言葉を続ける。


「如月、今日一緒に帰らない?」

「……え? でも、これから委員会の仕事あるから」

「待ってるよ」

「いや、悪いよ。時間かかると思うし。……それにうち遠いし……」

「それなら、なおのこと送るよ。待ってる」

「……」


 考え込む如月を、じっと見つめる。自分と帰るのが本当に嫌なのか、(てい)のいい断り文句なのか、見極めるために。いや、もう一押し……


「……やっぱ、迷惑? オレと帰るのイヤかな?」

「え? ……その……」


 ここで断られるなら、本当に迷惑だと思われてる。でも――


「分かった。多分、一時間くらいで終わるから、待っててくれると……嬉しい」


 その「嬉しい」の一言でオレは確信した。もう如月は、オレのことが好きだ。


***


 オレは教室で外を眺めながら、如月を待っていた。誰かを待つと言うのは、久しぶりな気がした。グラウンドで運動部が、何やら一生懸命に青春している。オレはそれを冷ややかな目で見つめた。


***


「……八神君、八神君!」


 その声に、オレは慌てて覚醒(かくせい)した。如月が心配そうに、顔を(のぞ)き込んで来る。


 ……ち、近い!

 

 どうやらグラウンドを眺めながら、そのうち、机に突っ伏して寝てしまっていたらしい。


「ごめん、お待たせ。帰ろっか? ……ふふっ」


 如月が柔らかく微笑む。何? と思ったが、如月は頬を指先でトントンと指摘する。「跡付いてるよ」と可愛らしく笑った。オレに恥ずかしさとプライドが同時に去来してきた。思わずううっと腕で顔を(おお)ってしまった。


***


「げっ……雨! さっきまで降ってなかったのに……」


 昇降口の扉越しに外を眺めて、不機嫌がそのまま溢れてしまう。


「今日夕方から降水確率、五十パーセントだったよ」


 如月はそう言うと、鞄から折り畳み傘を取り出した。


「……一緒に入っていく?」


 そう如月は、上目遣いで聞いてくる。こんな奴だったか? とオレは一瞬たじろいでしまった。どうも如月といると、ペースが乱される。(はめ)めてるのはこっちだ。調子に乗るなよと思いながら、演じる様に「うん。助かるよ」と柔らかく返した。


***


 外は大分薄暗くなってきていた。雨のせいか、外練の運動部の連中も早めに練習を引き上げており、生徒の数もまばらだった。


 如月が持ってきていた小さめの折り畳み傘に、二人で入りながら歩く。雨が当たらない様にすると、自然と肩が触れる。柔らかく温かい如月の体温を感じて、ドギマギしてきた。


(何で、如月相手にこんな……)


 オレはその奥底から湧き上がってくる謎の感情を、必死で押さえ込もうとした。振り切る様に、如月に話しかけた。


「如月んちって、どこら辺なの?」


「駅向こうだよ」


「如月って、本好きなの?」


「え?」


「いやだって、図書委員で文芸部って……」


「良く知ってるね?」


「そりゃ……」


 そう答えながら、ふっと如月の方を見ると、彼女とバチッと目があった。なぜだか彼女の目を見ていると、吸い込まれそうな感覚に(おちい)った。


 息がかかる距離に、彼女の顔がある。このままもう少し距離を詰めたら、キス出来そう……


 そう感じて我に返った。何考えてるんだ、オレは――


 彼女はふっと視線を()らした。


「ここでいいよ。ありがとう。ここからバスだから、その傘貸してあげる」


「え?」


 ちょうどバスがやって来た。彼女はバスのステップに飛び乗ると、ドアが閉まる前に「お祭りの日は晴れるといいね」と柔らかく(ささや)いた。


 彼女を乗せたバスを見守りながら、オレは雷にでも打たれた気分だった。その場から、微動だにも動けなかった。



つづく

「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」「今後どうなるの⁉︎」

と思ったら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。

面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちで、もちろんかまいません。

ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。

何卒よろしくお願いいたします。

前へ次へ目次