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第28話「二周目〜覚悟の炎〜」

「止めたら、お前……」

「時間を……時間をもう一度、戻してくれ」


 今ここで動かないと、オレは一生後悔する気がした。神というのは気まぐれだと聞いたことがある。この黒猫にも、もう二度と会えないかもしれない。


「ふざけるな、調子に乗るなよ。この前の一回で、貸し借りなしって言ったろ。もう時間を巻き戻してやる義理はないね!」


「……頼む! お願いだ!」


 オレは気が付くと、土下座して頭を下げていた。黒猫は、はあーと呆れた。


「頭下げたら、どうにかなると思ってるの? 本当にガキだな。そんなの世界の摂理には通用しないよ」


「頼む。今度は絶対上手くやる」


 しばらくの沈黙が流れた後、黒猫はハアっと溜め息を吐き、オレの頭をポンポンと叩いた。


「……分かったよ。やってやるよ。あーあボクってお人好し。あれ? 猫だから、お猫好しかな?」


***


「言っておくけど、これが本当に本当の最後だから。次なんてないよ」


「分かった」


 オレはこくりと呟いた。


「一つ聞きたいんだけど、どうして如月が消えたか、分からないんだよな?」


「うん。ただ……もしかしたら、代償に起因してるのかも?」


「代償?」


「あ、言っておくけど、二回目の代償は、一度目より大きくなるから覚悟してよね?」


(……そう言えば、一回目の代償は自分の何を、持って行かれたんだろう? ……結局分からなかったけど……)


「分かった」

「本当に分かってる? 大体、一回目の時……それはもういいや。てかさ、戻って具体的に策はあるの?」


 そうだ、また七月四日に戻っても、今回と同じく、また如月が消える世界線かもしれない。


 いや、待てよ。今回の七月四日の朝、将暉から『今日の告白楽しみにしてる』とメッセージが来た。あれは告白ドッキリのことだ。

 あの時、将暉はまだ、如月を覚えていたことになる。となると、そこまではこの世界に如月は存在していたのだ。


 だが七月七日に学校に行った時、もう既に如月の存在は消えていた。どのポイントで消えたのか?


 一回目の如月がいた世界線と、二回目の如月がいない世界線……何が違うのか? 


 まず違うのは、自分が七月四日に学校に行かなかったことだ。あの日、将暉たちから抗議のメッセージが来なかったのが気になってた。あいつらの性格なら、絶対、文句の一つも言ってくると思っていたからだ。


 文句を言ってこない。その時には如月の存在が、消えていたのではないだろうか? 


 だとしたら、キーになるのはあの「告白」だ。オレは一回目のお祭りデートのことを思い出して、胸が(えぐ)られる思いだった。でも……


「最後に確認するけど、四日の一日前、七月三日には戻れないんだよな?」


 黒猫はコクリと頷いた。


「戻れない。戻れるのはどうやら、七月四日が限界みたいだ」


 だよな……そんな気はしてたよ。正解か分からないけど、次のやり直し、出来るだけ一回目を再現する。とりあえず、道はそれしかない。一回目の通りに行けば、如月はオレの知る七月十三日までは、存在出来るかもしれない。


 あの時の、冷ややかな眼差しの彼女を思い出す。瞳が潤みそうになった。あの日を再現する。あの日あったこと……如月は無事に復讐を果たした。傷つくのはオレだけだし、それよりも辛いことがあるのを今のオレは知っている。


「やってくれ」


「OK! じゃあ、いっくよー!」


 黒猫がそう叫ぶと、黒猫が大きく開いた目がカッと光った。あまりの眩しさに、再びオレは目を瞑った。


 次は絶対上手くやる。絶対、如月を消滅させない! 



つづく

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