第27話「二周目〜夢での再会〜」
「おい、大丈夫か? お前、相当ヤバイぞ。こっちに来掛かってる」
「……?」
「このままだとマジヤバイ。お前もこの世から消えるぞ」
「……え?」
「まだ、間に合う……代償は更に必要だけど、まだ間に合うよ」
「どういうことだ?」
オレはまどろむ意識の中で、何とか黒猫に尋ねた。
「辛いんだろ? 心が壊れ掛かってる」
「……オレは平気だよ。辛くなんかない」
オレは正しいんだ。オレは悪くはい。悪いのは如月なんだ……
そう思い込もうとしてるのに、何かが拒絶してる。前までの自分なら、こんなこと思わなかったはずだ……罪悪感なんて、抱かなかった……なのに何で……
「お前が救われる方法が、一つだけあるよ」
「?」
「如月心乃香を忘れることだ」
***
確かに如月のことを忘れれば、楽になれる。忘れられたら苦労はない。
「分かってるよ、そんなこと! でも、忘れられないんだ……」
「ボクならやれる。方法を聞いてきた」
「え?」
「……お前がさ、どんどん弱っていくの見てられなくって。ちょっと神道通って、何とかならないか、出雲で聞いてきたんだよ。ボクって超優しいー!」
「……は?」
この生意気な黒猫が優しいかは別として、その方法とはどんなものなのかと、オレは気になった。この苦しみから解放されるなら、何だってやる……そう思った。
「やれるのは一度きりだ。本来のボクの能力と違うから。代償は……」
黒猫が、オレのズボンのポケットを指差した。
「その御守りだ」
***
「……え?」
「その御守りには、神気が宿ってる。それにそれは、あの女とお前を繋いでしまってる唯一のものだ。それを逆に利用して、切り離し、消滅させる。いっくよー!」
「ちょっ! ちょっと待て!」
思わずオレは、黒猫を掴んだ。
「え? 何? 水差さないで欲しいんだけど? 大体ね、たかだか人間に、こんなサービス、神は本当はしないんだからね!」
「……え? お前、神なの⁉︎」
「は? 前言ったじゃん? てか苦しいんだけど! 離せって!」
そう言うと、黒猫は爪でオレの手を引っ掻いた。
「痛っ!」
オレは堪らず、黒猫を離した。
「何なんだよ、もー! 人間って本当に面倒だな! 男だろ⁉︎ スパッと決断しろよ!」
そう言われて、ぐうの音も出なかった。確かに何を躊躇してるんだ、これをすれば楽になれる……楽になれるのに……
黒猫を止めている自分自身が信じられなかった。でも――
「……オレが如月のこと忘れたら、どうなる? 如月の存在は戻ってくるのか?」
「は? 戻るわけないじゃん! お前が忘れたら、あの女は完全にこの世から消滅するよ」
それを聞き、オレは何故か目の前が真っ暗になった。忘れたい、消えて欲しい……なのに……
(如月……)
オレはそっと、ズボンのポケットから、あの貝の御守りを取り出してみた。小さな桜貝の御守りだ。
あの十日間の如月は、確かに偽りの如月だったかもしれない。自分が好きになりかけてた如月は、虚構だったのかもしれない――
でも、彼女は確かに存在していた。
「止める。記憶を消すの止める」
「は?」
そう言葉にした途端、オレの心に覚悟の炎が灯った気がした。
つづく
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