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第25話「二周目〜鈴の音の導き〜」

 どこをどう走ったのか分からない、ただ見覚えがある場所に出た。あのお堂だ。繋がった! オレは不思議とそう感じた。


「おい、黒猫! いるんだろう⁉︎ 出て来いよ‼︎」


 虚しくオレの叫び声だけ辺りに響いた。微かに残っていた日の光が完全に消えたと思った時、ニャアーと猫の鳴き声がした。


***


五月蝿(うるさ)いな、偉そうに何だよ?」


 その声の方に向き直り、見上げると、鳥居の上にちょこんと黒猫が座っていた。


「黒猫、如月は⁉︎ 如月はどうしたんだ⁉︎」

「は? キサラギ? ああ、あの女? 知らねーよ」


 この猫は如月のことを覚えてる。やっぱり如月は存在してたんだ。


「どこにやった⁉︎ 如月がいないことになってる! お前、時間を戻した時、何したんだ⁉︎」


「えー? そんなことしたつもりないんだけど、それ本当にボクのせい? 心当たりないなー、うーん」


 そう考えながら、黒猫は伏せて眠りだしてしまった。この緊急事態になんて神経だと、腹が立って来た。


「おい、寝るな! どう考えたってお前のせいだろ⁉︎」


 その決めつけに、黒猫は聞きずてならないと、片耳をピクッとさせた。そしてゆっくりと体を起こす。


「さっきっから偉そうだな、お前。知らないって言ってるじゃん! 言っとくけど、この前の願い事で、お前に対する貸し借りはなしだぜ。高圧的に、出られる言われはないね!」


 オレは、黒猫の態度にうっとなった。ここは下手(したて)に出るしかない。


「如月が消えたんだ。恐らく、お前に戻してもらった時間軸から。……元に、戻せないか?」


 それを聞いた黒猫は、オレを冷ややかに見下して来た。


「本当に、そう思ってる?」

「え?」

「本当に、彼女が戻った方がいいと思ってるの?」

「……」

「彼女のこと、忘れたかったんじゃないの?」

「っ、それは!」

「良かったじゃん。忘れるどころか、なかったことになったし、その彼女も存在しないし、もう二度と彼女のことで苦しむことはないよ」


「……」


 自分は心のどこかで、彼女に消えてほしいと、思っていたのかもしれない。自分に非はないと、自分は悪くないと思いたかった。

 それには、彼女の存在が邪魔なのだ。


「……きっと、彼女の存在が消えたのは、お前が本当はそう願ってたからだよ」


 黒猫はそう囁くと、スッと鳥居の上から姿を消した。


 オレにはもう、黒猫を呼ぶ気力は残っていなかった。真っ暗になった境内に、ただただ立ち尽くすしかなかった。



つづく

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