第24話「二周目〜如月心乃香という存在〜」
七月十二日(土)
オレは疲れ果て途方に暮れて、自室の机に突っ伏した。自分以外誰も「如月」のことを覚えていない。「如月」という人間が、この世にいた形跡がない。
疲れた……本当に「如月」なんていなかったのかもしれない。如月に告白したことも、祭りの日にドッキリ仕返しされたことも、全部自分の妄想だった。
自分が作り出した架空の人物。自分の心は病んでしまっていて、弱っているのかもしれない。オレは古傷のある左足を無意識に摩っていた。
その時、ふっと「きさらぎ駅」を思い出した。昔ネットで流行った、都市伝説として語られている、架空の鉄道駅だ。
体験談では人里離れた沿線に、忽然と現れた謎の無人駅として描写されている。実際には存在しない駅――
「如月心乃香」も本来は存在しない人間だったのかもしれないと、考え始めていた。だって、その方が楽だから。もう如月というしがらみから、解放されたい――オレは心からそう思っていた。
現実に向き直ろうと、オレはおもむろに机から身を起こした。そして立ち上がった時――
『チリン』という鈴の音を、確かに聞いた。
あの時の神社で聞いた……いや違う――
どこから落ちたのか、オレの足元に、鈴の付いた貝の御守りが落ちていた。
***
不意のことに、しばらくオレはその場で固まってしまった。
――どこから現れた?
これは「あの日」如月と買った御守りだ。
……やっぱり、いた……
……如月はいたんだ!
堪らずオレは、部屋を飛び出していた。
***
よくよく考えてみれば、こんなことになっているのはあの「黒猫」のせいなのだ。絶対そうだ。他に考えられない。
何で今まで、気が付かなかったのだろう? 完全に頭から欠落していた。
オレは隣町の神社へ急いだ。
***
隣町の神社は、明日の祭りの準備で賑わっていた。オレは人目を掻い潜り、境内に入った。
あの日は暗くて、どこをどう通ったか分からない。ただ歩き回っていれば、あの猫を埋めたお堂に、あの古びた鳥居の所に行けるはずだと考えていた。
だがいくら探し回っても、道路に面した長い階段は見つからず、目的の鳥居やお堂も探し出せなかった。
もうすぐ日が暮れる。どうして見つけられないんだと、境内の地図を検索して驚いた。オレが猫を埋めたであろう、それらしい場所が載っていない。
まるでこれでは「きさらぎ駅」だ。
気力が抜けていくようで、オレは立っていられなくなった。
その時――微かに鈴の音が聞こえた。
あの時と同じ――オレは、その鈴の音の聞こえてきた方に夢中で走った。
つづく
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