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第21話「願いごと」

「願いごとには代償が必要なんだ」

「……どんな?」


 これが夢だとしても、願いごとがそう簡単に叶うものではないと、オレは心のどこかで思っていた。


「お前の、どこかしらの『一部』だよ」


 よくあるパターンだと思った。ゲームや小説なんかでも「代償」というのは大体そんなものだ。


「驚かないんだね? 冷めてるなー」

「願いごとを叶える代償なんだ。そんなもんだろ」

「話が早いじゃん。で、どうする? それがなんなのか叶えてみないと、ボクにも分かんないんだけど?」


 黒猫は可愛らしく首を傾げた。


「それは、お前の『目』かもしれないし、『腕』かもしれないし、『内蔵』かもしれない……『心臓』や『頭』なら最悪死ぬかもね」


「‼︎」


「どうする? そりゃ死ぬかもしれないなんて言われたら、嫌だよね。死ななくても、どこかしら『欠損』するんだ。怖いよねー」


 馬鹿げてる……死んだら終わりじゃないか。しかもどこか欠損してまで――そこまでして、叶えてもらうことなのか?


「やめとく? そう……残念。もう二度と会うことはないと思うけど、それじゃあね。バイバイ!」


 黒猫は、軽快に階段を登っていく。このまま……このまま見送っていいのだろうか。一度通り過ぎたチャンスというのは、二度と掴めない――オレはそれをよく知っていた。


「待って!」


 黒猫はその呼び声に、ピタリと足を止めた。


「……なあに?」


***


「代償はさっき話した通り。お前のどこかしらの『一部』。それでボクの最大限の力を使って、出来る限り時間を戻してあげる」

「どのくらい?」

「そこはやってみないと、分かんないね」

 

 オレはしばらく考えた。どこまで戻るのかも分からないのに、たとえ夢だとしても、今の自分はどうかしてる。でも――


「分かった、やってくれ」


 黒猫はこくりと頷いた。


「じゃあ、いっくよー!」


 黒猫がそう叫ぶと、黒猫の大きく開いた目がカッと光った。あまりの眩しさに、オレは思わず目を瞑った。


 しばらくして網膜に光を感じなくなり、目を開けると、辺りはシーンと静まり返っていた。目の前にいた猫はもう居なかった。目は見える。目は持っていかれなかったようだ。


 さっきまで、まったく動かなかった足が動く。オレはそのまま、ガクッと階段を降り切った。


 その時――


 道路の曲がり角から、もの凄い勢いでトラックが走って来た。街灯の光がここまで届いてない――


 次の瞬間――


 先程の黒猫は鳥居の上に姿を現し、寝そべりながら欠伸をした。


「あーあ、やっぱり死んじゃった」



つづく

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