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第20話「喋る黒猫」

「……オレ、夢でも見てるの? それとも、マジ死んだのか?」


「何言ってるんだ、死んだのはボクだよ。お前は生きてるよ、人間」


「……ちょっ、ちょっと待て! さっきの猫⁉︎ 生きてたのか⁉︎」


「いや、だから死んだんだって」


「……は⁉︎ どういうことだよ⁉︎  ……意味が分からないんだけど!」


 本当にわけが分からない。さっき埋めた死んでいると思った猫が、ここまで這い上がって来て、言葉を喋ってる。


 如月にされた仕打ちがあまりにショック過ぎて、自分の頭がおかしくなってしまったのかと、オレは思った。


 とにかく逃げなければ、ここから離れなければと思うのだが、足が動かない。


「まあ、待てって。落ち着けって。って言っても無理か。人間の常識って面倒だな」


 黒猫はニヤッと怪しく笑った。


「とりあえず、その汚れた手と服、何とかしてやるよ」


 そう黒猫は告げると、パチンパチンと瞬きした。するとあっという間に、オレの手と服の汚れは綺麗になった。


「お! 凄い! マジヤバイな、この力!」


 黒猫は、自分のしたことに大はしゃぎしている。オレは唖然と、それを見守るしかなかった。


「あー、まだ分かんない? ノリ悪いなお前。お前がこの神社にボクの遺体を埋めて、看取ってくれたから、神様? になったみたいなんだよね」


 オレは理解が追いつかず、恐らくこれは夢だと思うことにした。


***


「夢じゃねえよ。……頭固いなお前。まあ、もうそれでいいや」


「……」


「ボクを看取ってくれたお礼に、何か願い事、叶えてやるよ」


「……は?」


「ほら、ここ神社だからさ。お前くらいの年の人間は、いくらでも願い事あるだろう?」


「……」


 夢にしても唐突過ぎて、意味が分からない。オレはとりあえず目覚めなければと思った。


「夢と思ってんなら、いいじゃんか。夢でくらい」


「……」


「お前、後悔してることがあるんじゃないの?」


「……な、なんで……」


「救われたいと思ってる。……やり直したいと思ってること、あるんじゃないの?」


「……オレは……」


「さっきボクを埋めてた時、お前の感情が流れ込んで来た。『如月心乃香』とのこと、何とかしたいと思ってる」


「‼︎」


 具体的に名前を出され、オレは動揺した。なんだ、この猫。心でも読めるのか⁉︎


「お前の望み叶えられるよ。ボクの力なら」

「……う、嘘だ」

「嘘じゃないよ。今見ただろ? ボクの能力。お前の手と服の汚れ、取り除いたんじゃない、元に戻したんだ。時間を戻したんだよ」


 自分の手と服を見てみる。時間を戻した? 


「夢と思ってんなら、叶えて貰えばいいだろ、疑り深いな」


「それで、お前に何かメリットあるのかよ?」

「お! ノッて来たじゃん! ……だからお礼だって」


 眉をひそめるオレに、黒猫は続ける。


「きっと哀れなお前を見て、運命の神様が、ボクとお前を出会わせたんだよ。こうなることはきっと、必然だったんだ」


 運命……そうなる運命。今日如月とこうなることは運命だったのかと、オレは項垂れそうになった。


「お前このままだと、その女のこと忘れられないよ。ずっと苦しむよ。あの女の怨情は呪いに近い。しかも神域で『絶対許さない』と言い切った。言霊って知ってる? このままだとあの女の言葉に、呪い殺されるかも……でも、ボクの力なら元に戻せるよ」


 オレはあの花火の上がる中、如月に言われた言葉を思い出した。再び胸が張り裂けそうになる。救われたい……やり直したい、なかったことにしたい。


「……どうすれば……」


 黒猫は、そのオレの呟きに目を細めて微笑んだ。

 


つづく

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