前へ次へ
17/100

第17話「告白ドッキリ 如月心乃香sideーその11」

 売店には凄い人でなかなか近寄れず、流されるように、本堂の参道前の開けたところに出た。


 ここはまだ人混みがマシで、神社関係者が何やら、呼び込みをしている。神社なのに俗っぽいなと思ったが、その呼び込みに釣られて、ペアの御守りを買わされる羽目になった。


 海が近いからか、その御守りは小さな貝と鈴が付いており、二つ合わせると二枚貝になるらしく、一つとして同じものはらないらしい。


 私は、この二枚貝の御守りを見つめながら「貝合わせ」を思い出した。


 平安時代の貴族の遊びの一つで、九十個以上の貝殻を並べて、一つの貝殻に合う貝を見つけるという、現代の神経衰弱に似た遊びだ。


 あれはたしか、ハマグリの貝が使われていたはず。この御守りの貝は桜貝だろうか?「貝合わせ」から着想を得て作られているとした、縁起物だし「この世に二つとない」というのが、希少価値を上げ、更に縁結びの御守りとしても効果している。


 神社側のそのあくなき商売アイデアに、私は感心した。どこぞで拾ってきた貝だろうが、これなら一つ五百円(ペアで千円)でも、浮かれた参拝者は買ってしまうだろう。


***


「そろそろ、花火が始まるな。ここだと人多くて、ちょっと見づらいよな……移動する?」

「なら、ちょっと歩くけど、私いいところ知ってるよ?」


 仕掛けられる前に、こちらが仕掛けてやる。だがここは人が多すぎて、戦いの舞台には似つかわしくないと思った。


 ここの境内は小さな頃たまに来ていた。花火を見るのに、とっておきの場所がある。

 そんな場所を八神に教えるのはシャクだったが、作戦決行の為に仕方ない。それに作戦が成功しようが失敗しようが、二度とここに来ることはないだろうと、私は思った。だからもういいのだと感じていた。


 二人は本堂の横道を抜け、竹林の小道を通り、私は申し訳程度に舗装された、階段の上を指差した。


「この先だよ」


 そう言われて、八神は少したじろいだように見えた。階段はかなりの長さだ。私は下駄でここを登り切れるか心配だったが、ここまできて億している場合ではない。


 一歩一歩何とか登って行く。鼻緒が擦れて痛い。下駄を脱ぎたかった。普段からこんな苦行を当たり前にやっている、世のオシャレ女子、男子に敬服する。


 頂上まで登って来ると爽快だった。夜風が気持ちいい。ちょうど花火が夜空に咲き出した。

 

 私はお堂の奥に八神を案内した。ちょうど座れそうなスペースがあり、私はふうっとそこに腰を下ろした。


「大丈夫か?」

「うん。大丈夫だよ。見て! 花火、すごく綺麗だね」


 八神も私に習って、隣に腰を下ろしてきた。

 私は花火を眺めていると、疲れた足と痛みで気が緩みそうになった。すぐ横の八神の視線に気が付いた。勝負時かもしれない――


 私は意を決して「見ないの?」と小首を可愛らしく傾げてみた。沈黙が流れる。もしかしたら、いいムードというやつなのかもしれない。

 

 こいつらが、どこでドッキリを仕掛けてくるか分からない以上、こちらが先回りする必要がある。


 まだ来ない……なら――


 私は、思い切って目を閉じてみた。


 怖い……

 

 その時、八神が動いた気配がした。本当にキスする気? こんな遊びで? こいつら本当にどうかしている――


 でも、絶対に負けない。

 

 騙されたと気づいた、八神たちのことを想像する。思えば長い十日間だった。やっと、やっと解放されるのだ……私は自然と笑みが溢れた。


 私は肩を震わせながら、クククと笑い出す。八神は何が起きているか分からず、その場で固まった。


「ちょっとは楽しめた? 八神君」


 私は目を開けた。目の前には、豆鉄砲でも喰らったような、マヌケな八神の顔がそこにあった。



つづく

「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」「今後どうなるの⁉︎」

と思ったら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。

面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちで、もちろんかまいません。

ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。

何卒よろしくお願いいたします。

前へ次へ目次