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第15話「告白ドッキリ 如月心乃香sideーその9」

「どうこれ? お母さんは、こっちの明るい色の方が、心乃香に似合うと思うんだけど」

「えー? 紺の方が大人っぽいって。相手、心乃香の同級生だよ? 可愛いより、大人っぽい方がいいよ。ねえ、心乃香はどっちがいい?」


 正直どっちでも良かった。母親と姉は当の本人より、自分達が主役の様に、浮き足立っている。

 女性のこのノリ……学校でも覚えがある。まったく自分には理解できないが。


「じゃあこっちで」


 姉の感覚の方が、今の流行りに合っていると思ったけれど、明るい色の方が夜に映えそうな気がした。どれだけ目立つかが肝心だ。えー! と姉は、自分の提案が受け入れられなかったことに不貞腐れた。


「試しに着付けてあげる」


 母親が嬉しそうに、浴衣セットを一式畳に並べ出した。


***


 浴衣なんて、小さな頃以来着たことがなかった。全身鏡に映る、浴衣を着ている自分の姿を見て、確かにこれはいいアイデアだと思った。

 浴衣というか、着物はどんなボディラインでもそこそこに見える。普段見慣れている制服ともだいぶ違うので、ギャップもだいぶある。


 恋愛にはギャップが大切だと、昔、安西先輩が講釈を垂れていたことを思い出した。


 姉は「髪はどうするの?」と、聞いてきた。そうか髪……自分は癖毛で毛量が凄いので、上手くまとまらないのだ。折角浴衣を着たって頭がこれでは、浴衣の価値も下がってしまう。


「あたしがやってあげる! 髪飾りは、これなんかどう?」


 私はこの時、姉がいてくれて初めて良かったなと思った。


 姉は器用に、私の髪を整えていった。流石リア充。そのテクニックは半端じゃない。サイドの髪を編み上げて、私の髪を落ち着かせ、赤い鮮やかな髪飾りを、器用に挿してくれた。


 姿見を見て正直驚いた。まるで別人だ。ちゃとした手順を踏めば、私でもここまで見える。オシャレというのは偉大だと思った。


「眼鏡どうするの? 外したら? そっちの方がぜったい可愛いって!」

「いや、眼鏡外すと全然見えないし……」

「あんた、昔コンタクト作ったじゃない? アレしていきなよ」

「でもコンタクトはな……」


 私はコンタクトが苦手だった。昔コンタクトを作ったのだが、着け心地が嫌いで、結局眼鏡に戻ってしまった。


 でもここまで仕上げてもらったのだから、完璧な状態で臨みたい。オシャレというのは「我慢」をすると言うことなのかもしれないと思った。


 私は洗面所に行き、コンタクトを着けてみた。まだ度は合っている。ただ、目が痛い。きっとその内コンタクトに水分を吸われ、目も乾いてくる筈だ。できればデートは一時間。それでケリをつけたいと思った。


 完全な姿になった私を見て、母親と姉はワーワーと騒ぎ出した。「可愛い!」「絶対いけるよ! 流石私の妹」などと言いたい放題だった。挙句、母親が「心乃香が、男の子と付き合う日がくるなんて……」と涙ぐんできてしまい、私はこの二人に申し訳なくなった。


 付き合っていないし、好きでもないし、寧ろ大嫌いだ。明日その男を、コテンパンにやっつけに行くなどと、口が裂けても言えないと思った。


 自分の親兄弟に対して、こんな罪悪感を抱かせるのは、全部八神たちのせいなのだ。


 私は改めて復讐を成功させる為、自分を奮い立たせた。



つづく

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