第14話「告白ドッキリ 如月心乃香sideーその8」
七月十二日(土)
お祭りの日を目前にし、私はとんでもないことに気が付いた。
(着ていく服がない……)
デートなんかしたことがない私でも、流石にそれなりのカッコを、していく必要があると今更ながら気が付いた。
自分が持っているのは、ラフな服ばかり。私は、服は動きやすさと丈夫さと着心地が、最も重要だと考えていた。
お小遣いで、服など買ったことはない。大体オシャレな服を着ようとも、着るのは自分なのだ。どんなに着飾ろうが、たかがしれている。虚しいだけだ。そんな物に貴重な小遣いを割くなら、読みたい本を買った方が数百倍自分にとって有益だ。
今から買いに行くか……いや、残りの小遣いで、買える服などたかがしれているし、何で八神の為に、そこまでしなくてはならないのかと腹が立ってきた。
私は人に弱みを見せるのが大嫌いだった。出来れば人に頼りたくない。弱い自分を見せたくない。
これは弱者ならではの発想なのかもしれないが、弱いからこそ「虚勢」を張る。
やたらと怒鳴ったり、威張り散らし周りを牽制する人間がいるが、あれは弱さからくる虚勢だ。自分が弱いと悟られないようにしているのだ。弱い自分を隠す処世術なのだ。
正直、親兄弟であっても頼りたくない……弱さを見せたくない……が、今回は緊急事態だ。
***
私は、意を決してそのドアをノックした。
「お姉ちゃん、ちょっといい?」
「え? どしたの?」
普段、こちらからは殆ど話しかけることがないので、姉はビックリしたようだ。
社交的で、明るく、人生を謳歌しているような、自分とは正反対の姉だ。
何かしら、いいアイテムを持っているはずだ。
「何か、いい感じの服、貸して欲しいんだけど?」
「は? いい感じの服?」
「……具体的には、男を籠絡させられるような服」
「え⁉︎」
しまった、どういう服がいいのか全く分からなくて、ストレートに聴き過ぎた。
「えっと、デートに着ていくような服?」
何でこんなこと、身内に打ち明けなければならないのだ。恥ずかしくて死にそうだ。
ただ姉は、自分の様子に些か勘違いしたようだ。
「男を籠絡するデートって、あんた援交とかしてんじゃないでしょうね⁉︎」
「え⁉︎ 違うよ! そんなんじゃないし! ……相手同級生だし」
「何よ、ビックリさせないでよ! あんたみたいな真面目なタイプ程、転げ落ちたらヤバイっていうからさ……焦ったわ」
姉は今更、自分を大分誤解しているところがある。大人しく見えるのは、他人と関わるのが面倒だからだ。別に自分は真面目でも何でもない。
「あんたと同級生ってことは、中坊でしょ? そんなの、胸の開いた服着てけば一発よ!」
私は、自分の真っ平らな胸を見下ろした。
「却下。胸以外で」
姉も自分の胸を見て察したようだ。他人にそう思われるのは腹立たしいが、実際、立派な胸を持ってないので仕方ない。
「それじゃ、足! 足出しなよ!」
「え⁉︎ やだよ。夜に足出したら、蚊の餌食だよ」
オシャレって大変だと、私はもう心が折れそうだった。
「え? 夜にデート?」
「お祭りに行くから」
「あーなるほど! 先に言ってよ! だったらピッタリなのあるじゃん! お母さんー! ちょっと~!」
え? 母親も巻き込む気かと、ギョッとした。これ以上、身内に知られたくなかった私は、姉の裏切りにヤキモキした。
つづく
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