第13話「告白ドッキリ 如月心乃香sideーその7」
外はだいぶ、薄暗くなって来ていた。雨のせいか、外練の運動部の人たちも、早めに練習を引き上げており、生徒の数もまばらだった。
自分で誘っておいてなんだが、出来るだけ人に、特に知り合いには見られたくないと、私は思っていた。
私が持って来ていた小さめの折り畳み傘に、二人で入りながら歩く。雨が当たらない様にすると、自然と肩が触れる。
作戦通り……作戦通りなのだが、八神の体温を肩に感じて、私は羞恥で心臓が飛び出しそうだった。
これは諸刃の剣だ。少なからず、相手側にもダメージが行くかもしれないが、こちら側のダメージが酷い。耐えられない。初めて感じる異性の体温に、私は体がどうにかなりそうだった。
何も気取られてはならないと、私は必死に何かに耐えていた。そんな時、八神が私に話しかけて来た。
「如月んちって、どこら辺なの?」
「駅向こうだよ」
「如月って、本好きなの?」
「え?」
「いやだって、図書委員で文芸部って……」
「良く知ってるね?」
「そりゃ……」
相当にリサーチされてる。血の気が引いた。こいつらは、弱者を常に笑者にして来たのだろう。嫌がらせに対する経験が、こちらとは全然違う。ずっと格上だ。
私は恐ろしくなり、ふっと八神を見遣った。相手もこちらを見ている。顔が近い……ウソ……ヤダ……殺られる!
何とか私は視線を逸らした。ちょうどバスがやって来る音がした。神の助けだ。
本当は、駅までは一緒に歩くつもりだった。だがもう限界だ。自分にはこれ以上無理だ。私はどうにか次の言葉を絞り出した。
「ここでいいよ。ありがとう。ここからバスだから、その傘貸してあげる」
「え?」
止まったバスのステップに、私は飛び乗った。ただこのままでは、今までの苦労が、水の泡だと我に返った。勇気を出せ!
ドアが閉まる前に「お祭りの日は晴れるといいね」と、何とかギリギリ柔らかく囁いてみせた。
車窓から八神が見えなくなるまで、作り笑いで耐えた。
八神の姿が視界から消えた途端、私は腰が抜けて、その場にへたり込んでしまった。
八神は、今日のことを何とも思ってないかもしれない。なのに自分はこんなにダメージを受けてる。
私は強者と弱者の間の、レベルの差をまじまじと感じ、この世の不公平さを改めて身に感じていた。
***
私が自宅側のバス停に着いた時、まだ雨が降っていて、鞄を頭にかざし、走って自宅まで帰ることになった。先程、傘を八神に貸してしまったからだ。
こうなることにも気が付かなかったとは、自分は相当動揺している。
自室に何とかたどり着き、ベッドに倒れ込んだ。何をやっているのかと、惨めになって来る。この弱音が、弱者の本質なのだ。
分かってる……分かってるが、虚しくて居た堪れない。負けそう……。
私は復讐の続きは、明日からの自分に任せることにして、枕に顔を埋めて声を押し殺して静かに泣いた。
つづく
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