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94:グリーンバーナコ

作者が「小説家になろう様」へ小説投稿を始めて10周年!

と言う事で、本日は10話更新になります。

こちらは1話目です。

内容はいつも通りですが、楽しんでいただければ幸いです。

「えーと、だ」

 俺は改めて周囲を確認する。

 部屋の中にグリーンバーナコとやら以外に魔物の影はない……はず。

 小島には生えている足首くらいの丈の草、グリーンのランクの証である体表の色、自身の特殊能力、と言ったものを利用して、隠れている魔物が居る可能性については否定できないが。


「取り巻きはなしでいいよな。たぶん」

『ブン。恐らくは』

「バアァァ……バアアァァッ」

 空を飛んでこちらに向かってくる青あるいは緑の姿はなし。

 沼地から顔を覗かせているような魔物も居ない。

 周囲の島の敵影は……距離があってよく分からないが、目の前のグリーンバーナコと同種の魔物は居るように見える。

 うん、この場に居るグリーンバーナコは一体で良さそうだ。

 そして、一体だけの魔物という事は、パンプキンやシルリダーと同じく、相応の戦闘能力を有する魔物という事だろう。

 注意を払って戦うとしよう。

 そう思って俺は一歩踏み出し……。


「バッボオォン!」

「っ!?」

 即座に横っ飛びからの転がりで全力回避。

 グリーンバーナコの上部から上空に向かって何かが放たれた。

 直後、俺が居た場所にグリーンバーナコの横幅とほぼ同じサイズの球体が落ちてきて破裂。

 どうやら酸を含んだ水で出来た球体だったようだが、何かしらのファンタジー補正も入っているのだろう。

 爆音とともに破裂した球体は着弾点とその周囲に爆発による破壊をもたらした上で、酸による溶解を爆発の範囲以上に、そして継続的に与えてくる。


「生物大砲と言うところか……」

「バアアッ」

 幸いにして今回はほぼ完全に避け切った。

 かかった酸も微量であったため、素のダメージは少なく、継続ダメージも既に収まっている。

 しかし、着弾点は……大砲の砲弾が着弾したみたいになってるな。

 直撃したら、一発でシールドは吹き飛ばされるだろうな、これ。


「とりあえず殴る!」

「バコン……」

 けれど、それだけ強力な攻撃であるためだろう、連射は不可能なようだ。

 という訳で俺はグリーンバーナコに接近し、陶器と言うより岩で出来ているような体表を殴りつける。

 衝撃がグリーンバーナコの体内に浸透し、跳ね返り、俺の体に返ってきた感触によって、俺はグリーンバーナコの正体……と言うより、どんな生物を元にしているのかを把握した。


「お前……フジツボか!」

「バナコー」

 そう、グリーンバーナコは超巨大化させた上に大砲化させると言う魔改造こそ施されているが、元になっているのはフジツボと言う動物だ。

 植物ではないし、器物でもなかったのだ。

 そして、相手がフジツボだと理解して表面をよく見れば、ヒントだと言わんばかりに藤の花の模様が浅く刻まれている。

 こんなもの分かるか!


「バッボオオォォン!」

『トビィ!』

「っ!?」

 と、内心で声を荒げている場合ではない。

 再び酸の砲弾が放たれた。

 俺は素早く着弾点を予測すると、グリーンバーナコの体を盾に出来る位置に移動。

 そして着弾、爆発し、俺にもグリーンバーナコにも影響なく終わる。


「ん?」

 俺はその結果に少し疑問を覚えつつもグリーンバーナコを攻撃。

 図体と壺の堅さ故にか、与えられたダメージは少ないが、確実にシールドは削れていく。


「んんん?」

『トビィ?』

「バコン……」

 両腕をフルに使ってラッシュを仕掛ける。

 電撃と炎が飛び散り、グリーンバーナコのシールドが僅かつつだが削れていく。

 対するグリーンバーナコは次弾装填中なのか、身じろぎもせずに時々鳴くばかりで、一切の反撃を仕掛けてくる様子が見られない。

 これは……おかしいぞ?


「ティガ、ドローンを使って……」

 単独出現する魔物にしてはグリーンバーナコは弱すぎた。

 こいつはどちらかと言えばオークのように、集団に一体だけ居て、後方から前衛の援護として砲撃を仕掛けてくるタイプの魔物のように思える。

 となれば、俺が気付けていないだけで、この部屋には他にも魔物が居るのかもしれない。

 俺はその懸念が正しいか確かめるべく、ティガにホーネットドローンを使ってもらい、周囲を調べてみようとした。


「っ!?」

『トビィ!?』

 だがその前にそれは起きた。

 どこからともなく飛んできた矢によって、俺のシールドが削られると共に、グリーンバーナコへの攻撃の手が止まる。


「これ……は……!?」

『ブ、ブブ!?』

 そして攻撃はそれでは止まらなかった。

 気がつけば、何本もの矢が俺に向かってきていた。

 発射の瞬間を見れなかったために認識加速が発動せず、俺の体には何本も矢が突き刺さっては、シールドの効果によってなかった事になる。


「くそっ、何が起きて……」

 俺はその場で身を伏せ、転がり、グリーンバーナコから離れつつ、周囲の様子を確認する。

 で、上を見た時に見えてしまった。

 幾つもの水の砲弾が俺の居る小島へと向かってきているのを。


「うおおおおいっ!?」

 俺は立ち上がり、出せる全力で駆ける。

 そんな俺の背後に何本もの矢が突き刺さり、水の砲弾が落ち、破壊を撒き散らしていく。

 攻撃の出所は見えた。

 近くにある別の島だ。

 別の島に居る魔物が、島を超えた超長距離攻撃を仕掛けてきているのだ。

 そして、超遠距離攻撃を行えない魔物は魔物で、こちらに近づいてきている。

 沼地から緑色あるいは青色の体表を持った女たちがこっちに近づいてきているし、遊歩道を伝って人影がこっちに向かってきているのが見えている。


『ト、トビィ、何が起きて……』

「バーナコ……じゃねぇ! たぶん他の敵がこの場に隠れてる! そいつが俺の位置を他の島の敵に送っていやがるんだ!」

『ブン!?』

 そう、恐らくだがフロア中の敵が俺へと向かってきている。

 そして、こんなふざけた現象が、十分な防御力、タフネス、砲撃能力と言う能力を有しているグリーンバーナコに出来るとは思えない。

 つまり、この場に居るのだ。

 俺に見つからないように工夫を凝らした上で、俺の位置を他の敵に教えているような魔物が。


「ティガ! 探してぶち込め! カウントは30だ!」

『ブン! 分かりました!』

 砲撃と矢の合間をぬって、俺の背中からドローンホーネットが飛び立つ。

 そして俺は空中に居るドローンホーネットにグレネードを渡し、ティガは上空から周囲に敵影がないかを探し始めた。

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