93:魔物とエレベーター
「魔物が居る部屋にエレベーターってのは……なんだかんだで初めてだったか?」
『ブーン……そうですね。初めてだったと思います』
次のフロアに繋がるエレベーターは、沼地と言う環境に配慮してか、四隅に緋色に輝くマーカーのようなものが設置されている。
直進性の高い光を使っているのか、それなりに近い位置まで距離を詰めないと見えないようではあるが、恐らくはこのマーカーがあれば沼地の下にエレベーターが隠れていても、認識することが可能なのだろう。
『トビィ。一応ですが資料を出しておきます』
「資料? ああなるほど、エレベーターに乗り込まれて、一緒に下り始めてしまった場合の話か」
『ブン。その通りです』
ティガから資料を渡されたので、俺は素早く内容を確認する。
なるほど、エレベーターに乗るとエレベーターと周囲を隔てるように金網が出現するのは俺も知っている事である。
この金網は基本的に破壊不可能であり、一部の攻撃はすり抜けるが基本的には攻撃も通さない優れものである。
だが、エレベーターを作動させた時にエレベーターから魔物を強制排除するようなものではない。
なので、エレベーターを起動させた時に、エレベーター上に魔物が居ると、特殊な状況に突入する。
『相手にもよりますが、トビィなら対応できるかもしれません。が、非推奨であることに変わりはありません』
「だろうな。ゴブリンやレイヴンならまだしも、シルリダーが相手でこれになったら、軽く地獄を見ることになる」
具体的に言えば、エレベーターはただ降下を続け、エレベーター上から魔物が排除されない限り、次のフロアに到着する事がなくなってしまうのだ。
この状況を解消するためには当然ながら魔物を倒すしかない。
しかし、エレベーターのサイズはマトモに戦闘を行えるような広さではなく、そんな場所で魔物と戦うとなれば……相応の消耗を覚悟するべきだろう。
ちなみにシルリダーのように大きめの敵がエレベーターに乗った場合、エレベーターのサイズが敵がギリギリ乗れる大きさまで拡大されるとの事。
厄介な話である。
『さてトビィ。次のフロアに向かいますか?』
「そうだ……いや、隣の部屋がマテリアルタワーだし、そこだけ回収しておこう。敵影無し、島同士が遊歩道で繋がっているから、襲われてもブルーレイヴンたちだけで済むはずだ」
『ブン。分かりました』
さて、それはそれとして。
露天マップの特徴である他の部屋を部屋の外から確認できるという点を活用して、隣の部屋に緋炭石と何かしらの鉱物のマテリアルタワーがあることを確認。
木製の遊歩道で通路も繋がっているので回収しに行く。
「おらあっ!」
≪特定物質:緋炭石を110個回収しました≫
≪鉱石系マテリアル:青銅・侵食を72個回収しました≫
で、さっくり回収。
青銅だったのは美味しいな。
これで今のゴーレムの修復が楽になる。
「「「ガガアアッ!」」」
『トビィ。ブルーレイヴンたちです』
「本当によく湧くし、寄ってくるのが早いな、こいつら」
そしてエレベーターがある部屋まで戻ったところでブルーレイヴンたちがまた襲来。
≪生物系マテリアル:肉・侵食を1個回収しました≫
≪生物系マテリアル:肉・侵食を1個回収しました≫
≪設計図:レイヴンヘッドを回収しました≫
「はい終わりっと」
サクッと処理した。
緋炭石が足りるなら、ブルーレイヴンの襲来によって集まった大量の生物系マテリアルは特殊弾『煙幕発生』に変えるのもありか?
少し検討しておこう。
「じゃ、次のフロアに行くぞ」
『ブン。分かりました』
まあ、検討しても実際に出来るのはフロア3.5の話。
まずはフロア3の攻略に集中するべきか。
という訳で俺はエレベーターに乗り、エレベーターはゆっくりと下降していく。
「……」
で、この僅かな時間に第三坑道・アルメコウのフロア1とフロア2について少し思い返してみる。
現状では攻略は概ね順調と言える。
敵がポップするようになったり、露天マップ特有の敵挙動は厄介だが、それは対応できる範疇に納まっている。
では、これまでの探索で恐ろしかった事と言うと……パンプキンの物理耐性やシルリダーの丸呑みか。
前者は対策が出来ていなければ手も足も出ない能力であったし、後者も対応を誤れば致命傷になる能力だった。
「ティガ。第三坑道の魔物は完全不明、だったよな」
『ブン。その通りです。トビィ』
それは第二坑道・ケンカラシでは無縁と言っても良かった、対策や対処が出来ていないなら死ねと言う、明確な殺意とも言える。
となれば、これからもそう言う魔物が出現すると考えて、警戒するべきだろう。
それと第二坑道・ケンカラシでの敵のランクの上がり方を考えると、フロア3からはグリーンの魔物が出現し始めるようになるはずだ。
こちらについても十分な警戒はして然るべきだろうな、うん。
「さて着いたか」
と、此処でフロア3に到着。
坑道の構造はフロア2と変わらず沼地だが、高低差はフロア2よりも少し激しくなっている。
見える範囲にトーチカらしきものは無し。
後はフロア2でのブルーレイヴンのように飛行系の魔物が仕掛けてくるかだが……。
「バアァァナコオォォ……」
「なんか変なのが居る……」
『ブーン……グリーンバーナコですね』
俺が降りた小島には一体の魔物が居た。
それは高さ2メートルを超える巨大な緑色の壺……の形をした何かの生物のようだった。
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