90:グリーンシルリダー
「さて、やらかしたが……」
ブルーシルリダーがブルーレイヴンを丸呑みにすることによって、グリーンシルリダーにランクアップした。
だが、二点ほど気になる事はある。
一つ、敵の同士討ちによるランクアップと言う現象は、俺の知る限りでは存在していなかったのに、この場でどうしてそれが起きたのかが分からない。
もう一つ、食べられたブルーレイヴンは食われた時点ではまだシールドが残っていたはずなのに、ただ呑み込まれただけで死んでしまった。
この二つだ。
「「ガアッ!」」
『トビィ!』
「分かってる! まずはこっちだ!」
二体のブルーレイヴンが襲い掛かってくる。
俺は二体の攻撃を避けつつ、左腕を二本の縄に変化させ、振り下ろし、ブルーレイヴンを二体とも沼へと叩き落す。
「シシシ……ナマー……」
「っ!?」
その間にグリーンシルリダーが両前ヒレと髭を反らし始め、それに合わせるようにグリーンシルリダーの周囲に緋色の円が素早く広がっていく。
俺はその挙動と円に嫌な予感を覚え、沼へ落ちたブルーレイヴンへの追撃を行わずにとにかく円の外へ出るべく駆ける。
「ズッ!」
「うおおっ!」
「「ギャブウゥッ!?」」
そして俺が円の外に向かって、やや無理やりな飛び込み前転を行った瞬間。
グリーンシルリダーが両前ヒレと髭を沼地へと叩きつける。
その行動によって円の中に黒色の波動が素早く広がっていき……円内の沼地全体が爆発。
俺の全身に衝撃波が響くと同時に、大量の泥が飛び散り、ブルーレイヴンたちが悲鳴を上げ、俺のもブルーレイヴンたちのも同じようにシールドが吹き飛んだ。
「シールド再展開!」
『ブン!』
俺は素早く特殊弾『シールド発生』を使用して、シールドを再展開する。
これで残りの特殊弾『シールド発生』の数は二つだ。
で、ブルーレイヴンたちは……シールドがない状態で沼に完全に飲まれてしまったためか、既に死んでいるようだ。
「シルウゥゥ……」
「なるほどな。やっぱりあの丸呑みが特殊と見た方がよさそうか」
『ブン。そうなりますね』
今回は直接的とは言えるか微妙なラインではあるが、またグリーンシルリダーの攻撃によってブルーレイヴンが倒された。
しかし、グリーンシルリダーはグリーンシルリダーのままで、ライムになっていないし、その上にも勿論なっていない。
と言う事は、先述の疑問の答えはシルリダーの丸呑み攻撃は成立すれば即死であると同時にシルリダーをランクアップさせる効果がある、と言う事になるのだろう。
『それで逃げますか?』
「逃げられねえよ。それにグリーンならまだ戦える範疇だ。グリーンキーパー・ケンカラシβだって緑ランクで、俺はそれを倒しているんだからな」
「シシシ……」
のそのそとこちらへとゆっくりと近づいてくるグリーンシルリダーに対して、俺は殴り合うための構えを取る。
うん、冷静に考えて、グリーンシルリダーから逃げるのは不可能だ。
なにせ、グリーンシルリダーの体の幅は通路の幅よりも少し小さい程度。
つまり、通路に沿うように丸呑み攻撃をされただけで、こちらとしては呑まれるか沼に落ちるかの二択となってしまい、ほぼ詰みなのだ。
よって、どれだけ環境的には不利であっても、グリーンシルリダーはこの場で倒さなければいけない。
それも出来るだけ手早く、新たなブルーレイヴンやブルーシルリダーが現れない内にだ。
「シルウウゥゥン!」
「避けて……」
グリーンシルリダーが口を開けて突っ込んでくる。
俺はそれをギリギリに近いところで避け、グリーンシルリダーの体の側面へと回り込む。
「殴る!」
「シルッ?」
そして、ぬめり気を帯びた緑色の体表を右の拳で殴りつける。
火炎属性のエフェクトが飛び散り、熱が撒かれ、衝撃がグリーンシルリダーの体を伝わる。
だが、その感触の内容は望ましいものではなかった。
「リダアアッ!」
「物理は分厚い脂肪に阻まれて減衰。火炎はぬめりと言う名の湿り気のせいで減衰。鉄・火炎製のナックルダスターと相性最悪じゃねえか」
グリーンシルリダーがこちらへと振り向きつつ、髭を鞭のように振るい、攻撃をしてくる。
俺はそれを避けながら、俺はグリーンシルリダーのシールドの状態を確認。
返ってきた感触通り、グリーンシルリダーのシールドはほぼ減っていない。
悔しいが、鉄・火炎のナックルダスターでは満足なダメージを与えられないようだ。
「だが電撃ならどうだ?」
グリーンシルリダーが完全にこちらを向き、髭の動きが止まる。
その隙を縫うように俺は左手を貫手の状態にした上で槍のように突き出し、伸ばし、先端のシャープネイルをグリーンシルリダーの右目に突き刺す。
結果は?
「シリャリャアッ!?」
「よし、電撃は通るな」
グリーンシルリダーのシールドが目に見えて減った。
どうやら電撃属性には弱いらしいし、打撃でなければ物理は通るし、目は当然ながら急所のようだ。
では、これを基本として攻めていけば、攻め手は十分か?
いや、それでは時間がかかり過ぎるな。
「シルウウゥゥン!」
「折角だ。食っておけ」
再びグリーンシルリダーが口を開けて突っ込んでくる。
俺はそれを回避するが……折角だからグレネードを俺が居た場所に投げ捨てておいた。
するとグリーンシルリダーは突進の勢いそのままにグレネードを飲み込み……。
「シリャリャアッ!?」
爆発。
先ほどのシャープネイルよりも大きなダメージを受け、口から煙を上げる。
定番ではあるが、やはり丸呑み攻撃持ちには体内からの攻撃が有効であるらしい。
「シシシ……ナマー……」
『トビィ! 先ほどの衝撃波攻撃です!』
「分かってる。チャンスだ!」
『トビィ!?』
と、ここでグリーンシルリダーはまるで怒りに任せるかのように、両前ヒレ、髭、そして上体そのものを反らし始め、部屋全体へと緋色の円を広げていく。
それを見て俺は前に出た。
ティガは驚いているが、逃げ場がない以上は攻撃のチャンスに変えるしかないからだ。
それに、一つ、上手くいくか分からないが、回避の方法も思いついた。
「うおらああっ!」
だから俺は右手で一つグレネードを投げつつ、左腕をチェーンソーのようにして何度もグリーンシルリダーを殴りつけ……。
「ズッ!」
「此処だ!」
グリーンシルリダーが沼へと体を叩きつけたタイミングで全力跳躍。
沼から全身を出し、沼と地面に触れているのをケットシーテイルだけにした。
そして沼が弾け飛ぶが……俺のシールドは3割削られる程度で済んだ。
「成功! 地震攻撃対策の定番は空中に居る事だってなぁ!!」
俺はその結果に満足しつつ、斧のように刃の先を揃えたシャープネイルを落下の勢いも乗せて振り下ろす。
「シリャリャアッ!? シィ……」
俺の渾身の一撃はグリーンシルリダーのシールドを叩き割る。
だがまだグリーンシルリダーは死んでいない。
だからグリーンシルリダーは俺へ髭による一撃を加えようと身を捩る。
「トドメだ」
「シリャアッ!?」
その瞬間、事前に投げておいたグレネードがグリーンシルリダーの腹下で爆発。
グリーンシルリダーに致命傷を与えつつ、動きを止めさせる。
そして俺はその隙に左腕を再び貫手の形に変え、指と腕を高速回転させ、ドリルのようになった状態でグリーンシルリダーの頭を貫き、完全なトドメを刺した。
≪設計図:シルリダーレッグを回収しました≫
「はぁ、急いで逃げるぞ。ティガ」
『ブン。そうですね』
俺はグリーンシルリダーが倒れたのを確認すると、急いで陸地へと向かった。
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