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9:手の強み

本日も四話更新となります。

こちらは一話目です。

『さて第二階層か。今回も通路スタートみたいだな。固定なのか?』

『ブン。第一坑道・レンウハクでは新しい階層に着いたときは必ず通路に着きます』

『そっちの方が有利だからか』

『ブン』

 俺は第二階層に着いた。

 周囲は第一階層の時と同じような通路。

 通路の方が有利だと言うのは、ゴーレムと相手の能力を比較した場合に、相手が自由に動き回れるだけのスペースがなく、無理やりに押し潰すという手段が使えるからである。

 まあ、必要ならやるとしよう。


「グルル……」

『さて部屋は……ホワイトコボルト、ただし武器持ちか』

『ブン。お気を付けを』

 部屋に到着。

 部屋には一体のホワイトコボルトが居るが、その手には岩で出来た短剣のようなものが握られている。

 岩のマテリアル同士に優劣は存在しないだろうから、あの短剣であれば、岩で出来ている俺にも多少はダメージを通してくるかもしれない。


「バウアッ」

『まあ、一度は試しておくか』

 ホワイトコボルトが短剣を逆手に握った状態で飛び掛かってくる。

 どうやらこの行動はホワイトコボルトである限りは共通の動きであるらしい。

 で、俺はホワイトコボルトの攻撃を第一階層の時と同じように敢えて左腕で受けてみる。


「ギュッ……ギュウゥ……」

『僅かに刺さる。放置すると食い込んでくる。と言うところか。放置できなくなっただけ、素手よりは強いわけだな』

 結果、数ミリ程度だが刺さった。

 とは言え、全力攻撃でこの程度なのだから、身動きが取れない状態で胸部を滅多打ちにされない限りは大した被害にはならないだろう。


『じゃあ反撃だ。ティガ、手のある強みを見せてやるよ』

『ブ?』

「バウッ!?」

 俺は一度退いてから、再び飛び掛かってきたホワイトコボルトの動きをよく見る。

 よく見て、短剣を避け、首と手首を掴む。

 そして、ホワイトコボルトの体を素早く自分より下の位置に持って行き……両足を地面から離す。

 するとどうなるか?


「……」

『……』

『ま、とりあえず一番分かり易い手の強みはこれだな。掴んで、投げられる』

 ゴーレムの体はどこも地面と接触していない状態では本来の重量を取り戻す。

 生物と言うのは、ファンタジックあるいはサイエンスなパワーをフル活用していない場合、自分と同じ体積で、自分より密度が高い物質に押し潰されたら、ただでは済まない。

 特に頭や胸と言った急所部分が潰された場合は致命傷にしかなりえないだろう。

 ましてや落ちて来る岩が、明確な殺意を持っていれば……その力は何倍にも膨れ上がるだろう。

 という訳で、ホワイトコボルトの頭は潰れ、即死。

 俺が立ち上がると同時に消え始めた。


≪生物系マテリアル:肉を1個回収しました≫

『肉ねぇ。フレッシュミートゴーレムって奴か。あまりこれでパーツを作りたいとは思えねぇな』

『そうですか』

 手に入ったのは肉か。

 だが、スコ82で肉は食べるためではなく、ゴーレムの体を構成する物質でしかない。

 しかし肉なぁ……。

 肉には肉のメリットがあり、それは岩が持ち得ないメリット何だろうが……肉だけで作るのはちょっとと思ってしまうな。

 主に見た目の問題で。


『まあ、1個じゃどの道パーツは作れないし、探索の続きだな』

『ブン。そうですね。そうしましょう』

 俺は周囲を見る。

 今居る部屋には、俺が入ってきた通路以外に三本の通路がある。

 第一階層と違って第二階層は迷路のように、あるいはダンジョンらしいダンジョンになっているようだ。

 そして、チュートリアル曰く、これの方が自然な坑道であるらしい。


『現状じゃ、通路の先なんて分からないんだ。適当に進むか』

 三本の通路から適当に一本を選んで、俺は進んでいく。


「グルルル……」

『おっと、新顔か』

『ブン。ホワイトハウンドですね』

 そうして部屋にたどり着き、現れたのは、ホワイトコボルトを四足歩行にしたような生物……いや、本来はこっちの方が普通か、白い毛並みに全身が覆われた犬だ。

 ただ、ペットとして飼われている犬と違って、毛並みは乱雑で、顔立ちも険しい。

 ちゃんと魔物であり、敵と言うわけだ。


「バウアアッ!」

 その攻撃は牙を剥いた状態での飛び掛かり。

 その動きはホワイトコボルトのものによく似ている。

 もしかしたら、ホワイトと頭に着く魔物たちは、プレイヤーが反撃しやすいように分かり易く、反撃しやすい攻撃モーションだけになっているのかもしれない。


『ま、チュートリアルならそういう方向性なのは自然か』

「バウッ!?」

 だったら敢えて受けてやる理由はない。

 という訳で、左手で素早く空中に居るホワイトハウンドの首を掴んで動きを止めると、右手を畳んで拳を作る。


『ふんっ!』

「キャイン!?」

 そして殴る。


『せいっ!』

「キャイン!?」

 殴る。


『おらおらおらあっ!!』

「……!?」

 暴れるホワイトハウンドの首を掴むことで逃げることを許さず、吹き飛ぶことを許さず、反撃を許さず、その状態のまま殴り続ける。

 体重を乗せたり腰を入れたりが出来ていないので弱い殴りになってしまうが、一方的に殴れるというシチュエーション自体は非常に良いものだ。

 だから俺は満足するまで殴り続けようとして……。


「……」

『終わりか』

≪設計図:ハウンドレッグを回収しました≫

 ホワイトハウンドは死んでしまったらしい。

 姿が消え去ってしまった。


『トビィは本当に殴ることが好きなのですね』

『おう、大好きだぞ。殴るのが好きすぎて、社会不適合者の烙印を押される程度にはな』

 もっと殴りたかったのに死んでしまうとは……残念で仕方がないな。

 まあいい、だったら、次の獲物を探せばいいだけだ。

 何せここはゲームの中で、連中は敵。

 現実と違って殴っても法に問われることはないのだから。


『さて次はどんな相手が待っているだろうな?』

 俺は次の部屋へと向かう。

 そこに待っていたのは……。


「「「ヂュヒヒヒヒッ……」」」

『ネズミ人間?』

『ブブ。ホワイトゴブリンです』

 三体の頭がネズミっぽい人間であり、その手にはクロスボウのようなものが握られていた。

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