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85:ポップ現象

『ところでトビィ。トビィはどうして、あれほどにパンプキンアームLを自在に操れるのですか?』

「ん? どうした突然に……ティガ、もしかしなくてもお前、ライブ配信のコメントを読み込んでいるな?」

『ブン。気づかれましたか……』

 次の部屋は特に何もない部屋だった。

 という訳で、さらに次の部屋へと普通に進む。

 で、ティガが妙な質問をしてきたからカマをかけてみたんだが……本当にコメントを読み込んでいるのか。


「はぁ、俺はコメントに対して返信しない。垂れ流し配信。そう言ってあるんだがな……」

『ブブ。別に答えなくても構いませんよ。移動中、トビィが暇だろうと思って話を振っただけですから。他に敢えてトビィへのメリットを挙げるなら、今後のサポート精度向上が見込めるかもしれないぐらいでしょうか』

 ティガはサポートAIである。

 だから、俺がダレないようにする方法の一つとして、コメントの中にあった質問をピックアップした感じか。

 賢いのは良いんだが、こういうのは迂闊に答えると妙な連中が湧く事があると聞いているし……まあいいか、変なコメントなら、そもそもティガが無視して俺には届かないだろうしな。

 今のように暇なときぐらいは答えてみるか。


「分かった。答える。ただ、俺は理論派じゃなくて感覚派だから、マトモな答えを期待するなよ」

『ブン。それは分かってます』

 この部屋は……緋炭石と青銅・火炎のマテリアルタワーがあったか。

 という訳で普通に破壊し、アドオン『オートコレクター』の性能によって普通に回収する。


「で、何で操れるかだが……慣れが大半だな。ゲームによっては人外のアバターを扱う事もあるし、そんなアバターでも自由自在に相手を殴り飛ばすべく、ひたすらに習熟訓練を積んだことがある。おかげでまあ、やった後は酷く疲れるが、八本腕での短時間ラッシュぐらいなら出来なくはない」

『ブーン。なるほど』

 で、この部屋は行き止まりだったので引き返す。

 さて、エレベーターはどこにあるだろうな。


「後はそうだなぁ……始点、中間点、終点の三点を意識すること、あるいは腕ではなく五本の途方もなく長い指と考えるとか、自分の体ではなく自由関節の人形を操っているのだとはっきり自覚するとか、そんな感じだな」

『ブーン。分かるような、分からないような、ですね』

「ちなみに同じような話をした時、ハンネの奴は何を言っているんだこいつは、と言う顔をした」

『ブン。そうですか』

 引き返し、新たな部屋へ移動。

 また何もない部屋……いや、何か違うな。

 これはもうコメントに答えている状況じゃないな。


「ティガ」

『ブーン?』

 俺は周囲を見回す。

 軽く地面を叩く。

 何か……何か違和感がある。

 だがなんだ?

 この部屋に入る前に俺はホーネットドローンでチェックをしている。

 が、その時には何も異常を感じなかった。

 しかし、実際にこの部屋に入った時には違和感を感じ、地面を叩いた時の感触で違和感は間違いのないものになった。

 なんと言うか、妙な力が集まっているような感触があるのだ。


『ブーン……トビィ、ティガには何も感じられませんよ』

「そうなのか? だが間違いなく違和感があるんだが……とりあえずこの部屋から離れておくか」

 俺は部屋を後にするべく通路に入る。

 そして、通路最初の角を曲がる直前だった。

 背中にあるホーネットドローンの視界に、ブルーリリィとブルーハウンドたちの姿が入ってきたのだ。


「!?」

『これは……トビィは良く気づきましたね』

「……。ポップしたのか」

『ブン。その通りです』

 先ほどの部屋にブルーリリィとブルーハウンドは間違いなく居なかった。

 と言うか、部屋の中に居たならば、俺は確実に襲われていた。

 つまり、さっき俺が居た間は、確かに魔物は居なかったのだ。

 よって、魔物は俺が居なくなってから……正に今、出現したのだ。


『第三坑道・アルメコウでは魔物のポップ現象が確認されています。今トビィが捉えた通り、本当に突然出現するのです』

「なるほどな」

 どうやら第三坑道・アルメコウになって、敵のポップ現象と言うある意味ゲームらしい現象が起きるようになったらしい。


『ちなみに出現する魔物はそのフロアに出現する魔物であることが大半ですが、フロアに突入してから相応の時間が経過した上に極稀な可能性ですが、異常に強力な魔物が出現することがあるそうです』

「あ、はい」

 そして、長時間滞在に伴うお仕置き魔物も存在している、と。

 ただまあ、その手の魔物は倒せれば逆に美味しかったり、他の敵に比べて殴り甲斐があったりで、準備を整えてからなら挑む価値がある相手だったりもするわけだが。

 ま、今の俺には関係ない話だな。


『それとそうですね。マテリアルタワーもポップします。ただ、魔物のポップにかかる時間を1とするなら、最低限の採掘が出来るようになるまでに3、十分な採掘をしたいなら5の時間がかかりますが』

「なるほどな。ま、基本的に同じフロアでの稼ぎは非推奨、とっとと先に進めって事か」

『ブン。そういう事ですね』

 マテリアルタワーもポップするのか。

 しかし、時間がかかり過ぎるな。

 属性付きの鉱石をどうにかして集めたいという理由でもなければ、マテリアルタワーのポップは待つべきではないだろう。


『それにしてもトビィはよく前兆を感じ取れましたね。ティガの持っているデータは魔物のポップは前兆のない現象という事になっているのですが』

「俺も違和感を感じただけだ。なんでかはまるで分からない。分からないから……まあ、検証班頑張ってくれ。どうせハンネ経由で俺の存在は知っているだろうしな」

 此処で俺は新たな部屋に到着。

 エレベーターがあったので、俺はそれに乗って次のフロアに向かう事にした。

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