79:グレネードとパンプキンアーム
「とりあえずは……10カウントくらいで試しておくか」
『ブン。そうですね』
俺は部屋の中に入ると、岩のマテリアルタワーから5メートルほど離れたところに立つ。
で、グレネードホルダーの位置を確認。
基本的にグレネードは右手で投げるつもりであるため、グレネードホルダーは腰の右側についている。
その上で、何度かグレネードホルダーからグレネードを取り出し、投げるという動作を、実際には取り出さずに行って、問題なく動けることを確かめた。
「じゃ、やるぞ」
『ブン』
俺は10カウントを意識しながらグレネードホルダーからグレネードを取り出す。
すると取り出したグレネードの上に円形のゲージが表示され、それが少しずつ減っていく。
どうやら後どれくらいで爆発するかを表しているようだ。
「よっと」
『ちなみにトビィ。先ほどのグレネードのゲージはトビィにしか見えていないのでご安心を』
「それは良い話だな」
グレネードを投擲。
岩のマテリアルタワーの傍に落とす。
で、念のために、俺とグレネードがある場所の間に岩のマテリアルタワーがあるという位置関係になるように移動。
「ふむ。有効殺傷範囲は直径で5メートル前後と言う感じか」
『ブン。それくらいですね』
やがて10カウント……ほぼ10秒後にグレネードが爆発。
周囲に爆炎と銅の破片をまき散らし、爆音を響かせる。
その衝撃で岩のマテリアルタワーの一部は破壊され、周囲に飛び散り、アドオン『オートコレクター』の効果によって自動回収されていく。
「よっ、ほっ、そい、そいっと」
続けて俺はグレネードを四つ、岩のマテリアルタワーを等距離で囲むように投擲。
また、グレネードを取り出す際にはその前に取り出したものと同時に爆発するようにカウントを出来る限り合わせる。
そして同時に爆発。
「んー……爆縮モドキで全方位から同時に爆風をを浴びせることで威力の増大を狙ったんだが……僅かに距離とタイミングがずれた分だけ威力も落ちたな」
『ブブ。流石に無理があると思いますよ。トビィ』
が、俺が思ったほどに威力が伸びなかったし、極めて間隔が短い四回の攻撃として扱われたのか、岩のマテリアルタワーは消えてしまった。
まあ、投擲による設置と目分量でのカウント調整などと言う適当な動作で完全な爆縮が出来てしまう方が問題か。
≪鉱石系マテリアル:岩を112個回収しました≫
「ま、試しとしては十分だな。これなら使い物になる」
『ブン。ならばよかったです』
岩の回収完了。
では。次の部屋に向かう……前にパンプキンアームLの試しだ。
「パンプキンアームLは……やっぱり色々と出来そうだな」
俺は改めてパンプキンアームLに目をやる。
パンプキンアームLは無数の短くて小さい棒状のユニットを腕の形にまとめ上げることで作られているパーツだ。
この短小なユニットは他のユニットと接触している限り自由に動かす事が出来る。
なので、きちんと意識をすれば、一つのユニットを肩から取り出して手の甲までスライドさせる事が可能であるし、腕の表層を時計周りにスライド、その下の層を逆時計回りにスライド、中心部分で回転運動をさせるような無茶苦茶な動きも可能なようだ。
と言うかだ。
「ユニットの中で特別なのは肩の付け根の一本とシャープネイルがくっついている五本だけで、他は全部代用可能なユニットなんだな」
『ブン。そうなりますね』
少し試してみよう。
俺は全力で左腕を突き出す。
そして、突き出しつつ腕を構成するユニットを移動させ、伸ばす。
すると傍目にも腕が伸びたような動きとなり、ただ左腕を突き出すよりも遠くまで拳を出すことが出来た。
「もう少し試すぞ」
『ブン』
俺は左腕を戻し、それから少し試す。
ユニット一本を繋ぎ合わせて紐のようにする。
腕を肩から生える五本の触手に変えて自由に動かす。
斧のような形状に変えて振り回す。
メイスのような形状に変えて振り下ろす。
「シャープネイルも合わせるぞ」
シャープネイルは長い爪型の刃と言える。
なので、先頭にシャープネイルを集めて高速回転させることでチェーンソーのように。
手刀の形で整えれば、刃の向きに合わせて斧にも槍にも。
腕の途中から刃を生やせばノコギリのように。
メイスの先から生やせばモーニングスターだ。
「こいつは本当に……楽しいな!」
そして、単純な拳の形であっても、シャープネイルの位置を調整すれば寸鉄のように扱う事が出来た。
「ただまあ、ナーフされないか心配になりそうなレベルで便利だな、うん」
『ブーン。まあ、大丈夫だと思います。ここまで簡単に扱えるプレイヤーはそう多くはないと思いますので』
「まあ、難しいのは否定しない。ただそれ以上に扱えた時の利便性がヤバいから、少し不安になっただけだ」
ついでに一つ試してみた。
紐状になるまで細く長くした腕を天井に伸ばし、シャープネイルで出っ張りの一つを掴み、その状態で両足を地面から完全に離してみたのだ。
結果は問題なくぶら下がる事が出来てしまったし、腕を縮めることで天井にも触れてしまった。
『それとトビィ。紐状になるまで細くした場合、1ユニットが破壊されただけでも甚大な被害になりかねません。そのリスクは重々承知しておいてください』
「言われなくても分かっているとも」
まあ、ティガの言う通り、欠点がないわけじゃない。
パンプキンアームLは確かに自由自在に伸ばすことは出来るが、総体積は一定なのだ。
つまり、伸ばせば伸ばすほど細くなり、千切れやすくなってしまう。
細くなるほどに腕力は落ちて、遠心力や蔓自身のスライドに頼ることになり、動きが悪くなるともいえる。
そして、修理についても、ある程度のユニット数が減ってからであったり、千切れ方によっては一発で修理不可能判定が出たりと、かなり癖が強いようだ。
これは明確な欠点だろう。
「ま、その欠点も含めて有効活用するつもりで行こうか」
『ブン。それでいいと思います』
≪鉱石系マテリアル:銅を102個回収しました≫
≪鉱石系マテリアル:金を16個回収しました≫
≪鉱石系マテリアル:青銅を86個回収しました≫
≪鉱石系マテリアル:真鍮・電撃を42個回収しました≫
その後、パンプキンアームLの試運転も兼ねて俺は四つのマテリアルタワーを破壊し、素材坑道・デイマイリから脱出した。