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70:リツの商売

「ブン。それでは折角なので設計図のコピーの仕方から、取引所での取引、目の前の相手との交換までティガが一通りの説明を……」

「じゃ、とりあえずお互いの手持ちの設計図を全公開して、お互いに欲しいものがないか確認していくか」

「そうね。そうしましょうか」

「その方が早そうですわね」

「……。効率的」

「せやな。あ、ウチの手持ちはほぼほぼコピーやから、その辺は気をつけてな」

 さて、ティガが設計図のやり取りについて説明をしているが、それを無視して俺たちはお互いの手持ちの設計図の確認を始める。

 ティガの説明を聞かなくていいのかって?

 俺はだいたい分かっているし、ハンネたちも俺よりは確実に理解しているので問題ないだろう。


「左腕をいい加減に変えたいんだよな」

「特殊弾に未対応の左腕だものね」

「トビィはんはどんなのを求めているん?」

「……。これとこれと……」

「皆様、色々と持っていますのねぇ」

 ただ、頭の中で設計図のやり取りについて改めて整理しておくか。

 えーと、まとめるとだ。


・自分が所有するオリジナルの設計図に出来る事はコピーと消去しかない。

・設計図のコピーには微量の手数料がかかる。

・コピーした設計図は二回まで所有者の変更が出来る。

・取引所に出品する場合、値付けは運営が定めた範囲内でする事になる。

・取引所の出品では運営が認めれば抱き合わせ販売が可能(これはリツからの情報)。

・目の前の相手とやり取りする場合は、制限はないので、設計図同士の交換、プレゼント、取引所では異常な価格でのやり取りも可能。

・ただし、目の前の相手とのやり取りでは、全て自己責任である。


 こんなところか。


「トビィ。デイムビーヘッドと特殊弾『シールド発生』が欲しいですわ」

「……。同じく」

「やっぱりこの組み合わせは人気になるのか」

「そりゃあそうやろ。あ、面倒事を避けたいなら、取引所に出品する際はウチを挟むとええで」

「正直、私もトビィから何セットか購入しておきたいのよね。検証班の中での発言権向上に使えそうだから」

 ちなみにだが、俺の設計図のコピーにかかる手数料は、今回はリツが負担してくれるような形になった。

 具体的に言えば、リツにデイムビーヘッドと特殊弾『シールド発生』のセットを10セットほど卸し、その代金として俺の頬が軽く引きつる額のSCを受け取り、そのごく一部でもってコピー代金を賄った形である。

 これだけだとリツが損をしていそうに見えるが……既に売り抜けたらしく、ホクホク顔をしている。


「この組み合わせ。特殊弾『シールド発生』の性能は勿論のこと、デイムビーヘッドの性能も良いのよね」

「……。強力な認識加速は人を選ぶけど、扱えるかを試す意味でも有用」

「見た目も人間の女性が蜂の頭に似た兜を被っているというデザインで、見た目に気を使うものにとっては是非欲しいデザインになっているのが素晴らしいですわね」

「ぶっちゃけ、埋蔵量十分な石油か鉱山を掘り当てたようなもんやろうな。これ」

「ま、俺としては今後金に困らないならそれでいい」

 余談だが、ハンネは普通に稼いだお金と検証班での働きで稼いだお金。

 フッセは先述の埋蔵金。

 ネルはマスケット銃と貫通弾の設計図を抱き合わせ販売。

 リツは商人として既に荒稼ぎ。

 と言う方法でもって、設計図のコピー代金を準備している。


「こんなところか」

「こんなところでしょうね」

「ええ、こんなところですわ」

「……。良い取引だった」

「いやぁ、今後ともご贔屓にな。購入と売却、どっちの意味でもや」

 そんなわけで無事に取引は終わった。

 俺からはデイムビーヘッド、特殊弾『シールド発生』、リボルバー、ヒールバンテージが主に出て行った。

 個人的にはケットシーテイルも売れると思ったのだが……どうやら俺ほどに飛び跳ねるプレイヤーはそう多くないという事で、少量のコピーをリツに売るだけで終わっている。

 で、代わりに受け取ったものは……まあ色々とあるが、大別するならこんな感じか。


・パンプキンアームLと言う左腕の他、複数の良さそうな腕の設計図。

・グレネードホルダーと言う新たな投擲物の設計図。

・ドローンホーネット。

・使うかは分からないが、強化や状態異常に関わるっぽい感じの各種特殊弾。


「ブブ。満足そうですね。トビィ」

「おう、満足だとも。これで第三坑道に向けて更なる強化を図れる」

 この中で特に大きいのは、やはり上三つか。

 ついに左腕も特殊弾に対応するし、モロトフラックに欠けている瞬間火力を補えるし、ドローンネスト-ホーネットが機能し始めるようになった。

 これで俺の戦闘能力はさらに伸びる事だろう。


「しかし、一枚だけとは言え、リツはよくドローンホーネットを持っていたな」

「ふっふっふ。使い方さえ分かればどこかで売れると思っていたんや。いやぁ、手に入れておいて良かったわ」

 なお、リツの品揃えについては流石商人と唸らされるものだった。

 ドローンホーネットもそうだが、他の三人が欲しい設計図の中でもリツしか持っていない設計図と言うのがあったのだ。

 それを的確かつ素早く出してきた点と言い、リスクを背負って設計図を買い集めている点と言い、どうやらリツは本当に腕利きの商人であるようだ。

 なので、この設計図のやり取りをしている間に、俺はリツともフレンドにもなっている。


「さて、これでお開きか?」

「そうね。必要な情報と設計図はだいたいやり取りし終えたし……」

 さて、これで今回の交換会は終わりだろう。

 となればこの後は自由行動となり、下の階に居る他のプレイヤーと何かしらのやり取りをしてもいいのだろうが……。


「む……。なんですのこれは……」

「ん?」

「フッセ?」

「……」

「どうしたん?」

 どうやらフッセの方で何かあったらしい。

 フッセにしては珍しく、しかめ面に近い顔をしている。


「皆様申し訳ありませんわ。どうやらもう少し、今回の会合を続ける必要があるようです」

「「「……」」」

「ブン。そうなりましたか」

 どうやら、フッセに何かがあったようだ。

 そして、その何かは俺たちにも関わりがあるものであるらしい。

 俺は飲み物を飲みながら、フッセの言葉の続きを待つ事にした。

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