69:フッセの報告書
本日は二話更新になります。
こちらは二話目です。
「では改めて映像を流しますわね。それもこちらの大画面で、です。おーっほっほっ! 私様の美しいゴーレムの姿が良く映ってますわー!」
「まあ、この方がいいだろうな」
「詳細まで確認したい案件だものね」
「……。こっちのが効率的なのは確か」
「ふふふ。楽しみやなぁ」
フッセが部屋に備え付けのモニターを弄り、件の映像を流し始める。
場所は第二坑道・ケンカラシのフロア5、坑道の構造は氷と岩が入り混じった低温の洞窟。
映像の中ではフッセの操る赤地に金色の装飾が施されたゴーレムが通路を歩いている。
「と、ここですわね。ここで反応があったのです」
さて、そんなフッセの操るゴーレムだが、俺と戦った時とは少し見た目が異なっており、頭部にはフッセのアバターについているものによく似たドリルヘアーが二本装着されている。
資料によれば、このドリルヘアーはレーダーエクステ・ツインドリルと言い、同じフロアに存在しているマテリアルの位置が何となく分かるようになると同時に、マテリアルタワーから得られるマテリアルの数を増やす効果があるそうだ。
この効果はフレーバーテキストに記されているし、他にも似たような効果を有する装備は幾つか発見されているとは検証班であるハンネからの言葉である。
「反応ね。具体的には?」
「微かに引っ張られるような感覚がありましたわね。ただ、非常に微細でしたわ。そうですわね……同じフロアにある他のマテリアルタワーを回収した上で、この場所を通る一瞬、そこで気づけるかどうか次第と言うぐらいですわね。私様、よく気づいたと自画自賛致しましたわ」
「ウチみたいな一般人はどうあがいても気づけへん奴やね。分かります」
「……。狙って探すのは非効率的になりそう」
「まあ、必ずあるわけでもなさそうだものね」
映像では微かな違和感を覚えたフッセが通路の壁を触って、何かを確かめている。
「そうそう、今回は構造にも恵まれていますわ。壁の氷の先が偶然ですけど、透けて見えた一瞬もありましたもの」
「なるほど確かに幸運ね。他の構造だったら、反応の微細さもあって、気のせいで終わらせてしまうかも」
そして、壁の先があることを確信したのだろう。
二丁のマスケット銃を乱射し、壁に弾丸を撃ち込んでいく。
すると他の壁と違って弾が当たった壁は少しずつ削れて行き……。
「この瞬間は思わず高笑いをしてしまいましたわね」
「まあ、こんな光景を見せられたらなぁ」
やがて音を立てて崩れ、一本の通路が姿を現した。
「あったマテリアルタワーは……大量の岩、大量の緋炭石、それに……」
「真鍮と鉄もありましたわ。そしてごく微量ですが、鋼もありました。鋼は鉄の上位互換のようですわね」
通路の先にあったのは大量のマテリアルタワー。
しかも、殆どのマテリアルタワーは攻撃可能な回数も制限も同じフロアにあった他のマテリアルタワーと比較して緩いものであったし、ダメージも出やすいものになっていたようだ。
おかげで、画面の中のフッセは高笑いを上げつつも、せっせとマテリアルを集める姿を見せている。
「……。でも、マテリアルタワーはおまけだった」
「ええそうです。真の財宝はこちらでした」
が、話はこれで終わりではなかった。
マテリアルタワーの群れに隠されるように、緋色のレコードボックスに似た箱状の物体が隠れていたのだ。
「中身ですが、インベントリのアイテム名表記は第一次計画の計画書となっていますわ」
「見せてもらっても?」
「もちろん構いませんわ。とは言え、暗号化が施されているようで、暗号を解かない限りは読めないようですが」
フッセが一枚の紙を机の上に置く。
この紙が緋色の箱の中にあったものであり、これを手に入れたからこそフッセはフロア5.5の現地ラボで脱出したらしい。
で、その紙に記されている文字は俺には見覚えのないものだ。
とりあえず、日本語および漢字、アルファベットと呼ばれがちなラテン文字、アラビア文字、いずれとも似ていない。
「……。サポートAIが読むことは?」
「ブブ。不可能です。そもそもこれは運営側が設定したアイテムではありません」
「サライオンもそう言っていましたわね。ですから、運営……政府には既にこのアイテムのコピーを渡しています。また、この場で明かしても問題はないという言質もいただいていますわ」
うーん、一気にきな臭くなったな。
何故かティガがサポートAI代表と言う顔で口を出したが、ティガの言った通りならば、これは運営ではなく開発側、各国政府ではなく社会全体を裏から操れる何者かが用意したアイテムという事だ。
何が記されているのか、第一次計画とは何なのか、不穏さしかないな。
「少し触ってみてもいいか?」
「構いませんわ」
まあ、それはそれとしてだ。
俺は計画書を指先で軽く叩いてみる。
「……。トビィ、貴方は何をやっていますの?」
「ん? いや、紙の材質とか、インクの感触とかを調べているだけだ。何か分かるかもと思ってな」
「あ、トビィの変態技能だから、フッセは気にしなくてもいいと思うわよ」
叩く事で、紙の感触、インクの感触を、それぞれへの衝撃の伝わり方を確かめていく。
とは言え、流石に紙の一枚一枚にまでデータを割いて……。
「んー? なんだこれ?」
俺は首を傾げた。
「え、何か分かったの……」
「何か分かるようなことがありましたの……」
「……。何か分かるなら、凄い技術ではある」
「ええ、何が分かったって言うん……」
「ブブ。トビィは本当に異常ですね」
「ユーッヒョッヒョッヒョウ」
「なんだ?」
「……」
「計算不能な奇貨って奴ですなー」
俺の反応にティガたちサポートAI含めて全員が反応した。
ただ、そんな期待されても困る。
「いや、そんな大したことじゃないぞ。ただなんて言えばいいんだ? 衝撃の伝わり方が紙と言う二次元の物体に対するものじゃない気がするだけだ。それ以上は何も分からない」
俺に分かるのは、この紙が普通の紙ではないという事だけだ。
「二次元じゃない? ……。フッセ、このオリジナルを買い取って、検証班で調べさせてもらっていいかしら? 興味だけの素人じゃなくて、ガチの方々でよ」
「構いませんわ。破損も覚悟で、本職の方に調べていただきましょう」
「……。人間打診機」
「検査に必要なものがあったら教えてな。ウチに準備できるものなら準備させてもらうわ」
「まあ、話が進んだなら、それでいいか」
とりあえず話は進んだらしい。
じゃあ、この先はハンネの知り合いの本職の方に任せるとしよう。
俺が関わっても出来る事は無いしな。
「じゃ、そろそろ商取引の時間だな」
「せやな。売り買いどっちにも応じるでー」
それよりも設計図を手に入れて、自己強化に努めるとしよう。
03/13誤字訂正