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68:ネルの報告書

本日は二話更新になります。

こちらは一話目です。

「ネル。他プレイヤーから物資を集められる分だけ、バーサスモードの方が楽になる感じか?」

「……。うん、現状では楽。トビィやフッセほど強いプレイヤーは殆ど居なかった。ハンネより弱いのばかり」

 ネルが提供した資料は第二坑道・ケンカラシをバーサスモードで探索し、フロア6まで踏破した際の記録だ。

 なのでまず全体の感想を俺は尋ね、ネルから予想通りの返答が来た。


「まあ、そうなりますわよね。私様より強いとなると殆どプロのプレイヤーの中でも上位層になるのですから。ハンネでもアマチュアの範囲内で見るなら十分強いわけですし……ネルの実力なら、楽になるのは当然ですわね」

「そうね。潜伏して相手に気づかれる事なく背後に移動。魔物との戦闘中にピンチに陥るか、倒し終わって油断したところで一撃で仕留める。そんな奇襲が基本なら、現状では対処できるプレイヤーはそう多くは無いでしょうね」

「実際俺もそれでやられたしな」

「……。でもトビィの時は驚いた。モロトフラックで一発目が防がれたのも、二発目を拳で弾こうとしたのも」

「戦闘に慣れているプレイヤーってやっぱりとんでもないんやなぁ……」

 現状ではバーサスモードで行動を探索しているプレイヤーはそう多くはない。

 おまけにその中では対人ガチ勢はまだまだ少なかったり、装備が整っていなかったりもする。

 そんな状態なので、装備が既にかなり整っていると言えるネルが楽になるのは当然のことかもしれない。

 だがそれらの事情を抜きにしてもだ。


「……。なんにせよ、バーサスモードがソロモードより楽なのは確か。他のプレイヤーがそれまでの探索で集めてくれた物資を丸々自分のものに出来るし、他プレイヤーが魔物の処理を一部してくれる」

「泥仕合にならないなら本当にそうだよなぁ」

「ま、あくまでも現状に限った話だけどね」

「……。それも確か」

 やっぱりバーサスモードは楽なのだろう。

 自分の手元にある物資の量がソロの時とは比較にならないのだから。

 とは言え、ハンネの言う通り、狩られる側の装備が整っていなくて、狩る側の装備が整っているなら、泥仕合になりづらいと言う現状があってこその話ではあるが。


「しかし、これならば、プレイヤーを一人でもいいから最深部に到達させたいと言う状況ならば、多数のプレイヤーをバーサスモードで同一の坑道に一斉突入させるという戦略もあるかもしれませんわね」

「誰が勝っても恨みっこ無し。泥仕合にならないような取り決め。そう言うのは必要かもしれへんけど、確かにありかもしれへんね。少なくとも連携の取れてないマルチよりは奥地へ行けそうや」

 ただ、泥仕合にしない方法は幾らでもある。

 となれば、フッセの言う状況なら、誰かがリツの言った取り決めを周知させた上で、バーサスモードの仕様をある意味では悪用して、奥地へと向かうというのは有用な戦略になるだろうな。

 たぶんだが、その時に音頭を取るのは検証班かプロゲーマーのチームとかだろうなぁ……まあ、たぶん俺は気にしない話だ。

 で、フッセの言うような状況があるかは……。


「まあ、このきな臭いゲームなら、特定期日までクリアできなかったら、現実含めて……と言うのはあり得そうな話だよな」

「「「……」」」

 全員、無いとは言えない感じである。


「ま、この話は此処までだな。起きてもいないことを話して、余計な厄介事を巻き込んでも困る」

「そうね」

「ですわね」

「……。その通り」

「せやなー」

 まあ、話は切っておこう。

 それよりもだ。


「それにしても、記録を見ているだけでも分かるぐらいにネルの坑道探索は効率的ね」

「……。どれだけ効率よく進めるかを考えて実行するのが僕の趣味。でも効率化はまだまだ。僕が称号の『キャンディデート』を持っていないのも、効率がまだまだだからだと思う」

「称号付与条件が複数あるかもって話の奴やな。まあ、装備が整えば自然と取れるんとちゃう? そういうわけやから……」

「……。売買はまだ後」

「分かっとるって」

 ネルの坑道探索の話に戻そう。

 確かにネルの坑道探索は効率がいい。

 相手がシールド持ちでないなら隠密からの狙撃に近い一射で、シールド持ちであっても少ない手数で確実に撃破し、傷らしい傷を負う事なく坑道探索を進めている。

 この記録はネルの実力をよく示していると言えるだろう。


「しかし、ただのシールド持ちもそうですけど、シールド持ちの群体は厄介そうですわね。トビィもネルも見ただけで戦いを拒否していますわ」

「……。あれは無理」

「ああ、あれは対策が無いと無理だ」

「範囲多段攻撃なんて現状であるのかしら?」

「んー、範囲攻撃はあるけど、範囲多段となるとどうやったかなぁ……」

 なお、そんなネルも俺と同じようにサーディンからは逃げている。

 まあ、対策なしだと手を出したら死ぬので、出さないのが正解であるし、フッセもそれが分かっているから、言葉に批判の色はない。


「それとあれだな。グリーンキーパー・ケンカラシγ、こいつを見た感想はどうだったんだ?」

「……。面倒そうな相手だとは思った。けど、そもそもとしてボスとはバーサスモードでは戦いたくない。他プレイヤーの横槍があったら、勝てるものも勝てないから」

「まあ、そうだよなぁ」

 ちなみにネルは緑キパβではなく緑キパγと遭遇している。

 見た目は牛の角が何百本と生えた巨大ウニで、針と針の間では火花が散っていたらしい。

 が、バーサスモードという事もあって、挑むことはなかったようだ。

 そう言えばボスであるキーパーもプレイヤーを倒したらランクアップするのだろうか?

 もしもするのであれば、マルチモードでのボス戦の難易度は跳ね上がることになるだろうな。


「それにしても、こうしてβとγの記録を見ていると、第二坑道・ケンカラシのボスたちが近接戦闘を拒否しているというのがよく分かるわね」

「そうなのか?」

「ええ、検証班に上がってきた報告によれば、αは自分の周囲を炎上させて、プレイヤーの接近を拒むらしいのよ。で、βが高速移動と面倒な外皮。γに至ってはマトモな近接武器じゃ肉に届かないレベルの長さの針を持つウニじゃない。どれもトビィのような例外でないと、近接戦闘なんて出来ないわ」

「まあ、普通ならそうか」

 なお、コンセプトとして、第二坑道・ケンカラシのボスたちは遠距離攻撃で何とかするべき相手に本来ならなっているらしい。

 俺は殴りたいので殴ったが。

 αでもどうにかして火の海を越えて殴っていただろうし、γでも棘を地道にへし折っていく事で最終的には殴っていただろうが。


「さて、そろそろ私様の番ですわね。おーっほっほっほっ! さあ! 何でも質問するといいですわよ!! 私様に分かる範囲でしたら、何でも答えて差し上げますわ!!」

「「「……」」」

 さて、それでは最後になってしまったが、フッセへの質問だ。

 とは言え、まずするべき質問は満場一致している事だろう。

 俺たちフッセ以外の四人は一度顔を見せ合い、それから頷き合い、ほぼ同じ言葉を発した。


「よく見つけたな。フッセ」

「よく見つけたわね。こんなもの」

「……。よく見つけた」

「よく見つけたと思うわ。ほんまに」

「ほーっほっほっほっ! 賛美の言葉が気持ちいいですわぁ!!」

 そう、フッセが提出した記録にはとんでもないものがあったのだ。


 それは第二坑道・ケンカラシに隠し通路、隠し部屋、隠し財産が存在するというとんでもない情報だった。

03/12誤字訂正

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