66:トビィの報告書
「読み終わった」
「……。読了」
「読み終わりましたわ」
「読んだわ」
「読んだで……って、ウチの速さで一番遅いんか!?」
読み終わった。
読む速さは俺、ネル、フッセ、ハンネ、リツと言いたいところだが、リツが読んでいる資料は一人分多いから、リツの読む速さは相当なものだと思う。
まあ、それはそれとしてだ。
「……。トビィ、フロア5で遭遇したブルーデイムビーが使っていた狙撃銃。アレの弾速はどれぐらいだった? 後、狙撃銃の設計図を持っている人が居たら、教えてほしい。言い値で買う」
「デイムビーの狙撃銃か……あくまでも感覚的なものになるが、平均値でマスケット銃の1.5倍くらいはあると思う。初速なら2倍から3倍はあるんじゃないか?」
「なるほど。やっぱり欲しい」
交換会の開始だ。
まずはネルが狙撃銃の主観的な評価を求めてきた。
こういう主観的な評価や判断は資料には書かれていないので、ちゃんと聞く必要があるのだ。
「トビィ。貴方はどうやってグリーンキーパー・ケンカラシβの動きを予測しましたの? 貴方の位置からだと体の一部しか見えず、殆ど壁を見ているようなものだったと思いますけど」
「音と筋肉や関節の動きだな」
「前者は分かりますが、後者はどういう事ですの?」
「んー……俺も感覚的にやっているのが大部分だから説明は難しいんだが、体ってのは全身きちんと繋がっているからな。どこかが動けば、他の何処かも動くんだよ。それを感じ取って、予測している感じだな」
「言うは易し、行うは難しの典型ですわね。真似をするのは難しそうですわ」
続けてフッセから緑キパβについて。
まあ、これについてはプレイヤー個人の技能や感覚になるから、真似したいと思って真似できるようなものではないだろう。
「え、と言うかそもそもとして、なんでこんなにゴーレムの腕や腰を回転させられるん? これ、ツッコんだらアカン奴なん?」
「そっちはVR慣れと言うか、人間の体とはまた別物であると認識すれば出来るだろ」
「……。うん、僕も出来る」
「私様も手首を360度回すくらいはできますわね。狙いをつけるのに便利ですわよ」
「大丈夫よ、リツ。私は出来ない方だから。出来る三人がスコ82における上位層と言うだけよ」
リツからのツッコミは……この場においては出来る方が
大丈夫大丈夫、出来ると意識すれば案外できるものだ。
「んー……。あ、それはそれとして、トビィはん」
「なんだ?」
「後でデイムビーヘッドと特殊弾『シールド発生』、この二つの設計図のコピーをセットで買わせてもらってええか? シールドを求めてるプレイヤーは多いし、ウチも欲しいんや」
「いいぞ。まあ、後でだな」
商取引についてはまたあとで。
なお、裏でティガに設計図の売買に関する資料を出しておいてもらい、他プレイヤーに見えない形で読み込んでおく。
「さてトビィ。称号の『キャンディデート』、これについて貴方はどう思ってる?」
「意味は候補者だと思うんだが、何の候補者なのか示されてないからな……ただ、ネルが取得できていない点を考えると、坑道探索モードがソロである必要があるか、相応の戦果を獲得している必要があるとは思ってる」
「……。それが妥当。僕は踏破を優先して、戦わないという選択を選んだ場面も多い」
「戦果の参照は確かにしていそうですけど、幾つかの基準があって、そのうちの一つを満たしていれば、と言う可能性も考えておいていいと思いますわ。そうですわね。隠密特化や速度特化でもあり得る気がしますわ」
「ふむふむ……。その辺は検証班で探ってみるわ」
「ウチには縁遠い話やなぁ……」
称号『キャンディデート』については……まあ、分からないとしか言いようがないな。
ただ、フッセの考察である、幾つかの基準の中から一つでも満たせばよい、と言うのはあり得そうだな。
何かしらの優れた部分があるプレイヤーを、候補者と言う形で括っているかもしれないし。
「それともう一つ。よく、一時強化なんてものに気が付いたわね。これは完全に新規情報よ」
「確かにこれは驚きの情報ですわね。今後の坑道探索のやり方が変わるかもしれませんわ」
「……。疲れのせいじゃなかった」
「これ、その内に一時強化をブーストする特殊弾とかもありそうやなぁ」
「ふふん。新規情報だと言うなら、後でいい感じに釣り合いを取ってくれ」
一時強化は流石に驚かれたようだ。
ただ、流石と言うべきか、ネルは薄々感じ取っていたらしいな。
一時強化のブーストは……確かにありそうだな。
定番と言えば定番だし。
「いやしかし、やっぱりこういう情報交換は重要だな。俺の視点からじゃ出てこない考察が出てくる」
「ええそうね。知らない情報が次から次へと出て来て、とても楽しいわ」
「そうですわね。私様の知らない技術や魔物、戦術が存在するのを知れる機会があるのは非常に素晴らしい事だと思いますわ」
「……。効率的」
「これからどんな装備やパーツが必要になってくるのかを知れるってのは本当にエエ話や。儲けの種が恐ろしいくらいに転がっとるで」
さて、これで俺の坑道探索については一通りだろうか。
「あ、ちなみにこれはウチからの情報になるんやけど、金はゴーレムのパーツとしては微妙なはずやのに、やけに買取価格が高いで」
「へぇ。覚えておく」
「ありがとなー」
金が良く売れるねぇ……。
また微妙にきな臭い情報だな。
まあ、それはそれとして、次はハンネに対して質問をしていくか。