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63:交換会会場の入口

「なんだあの格好……」

「ロールプレイか?」

「ひえっ」

「色気があるのかないのか……」

「リアル系の巨大蜂を頭に乗せるのはちょっと……」

 大広間の中には何人もプレイヤーが居て、俺へと視線が向けられる。

 視線にこもっている感情としては、大半は困惑や疑念、一部は恐怖、さらに一部は好戦的であったり、話しかけたいと思っているような感じであったり、警戒であったり……まあ、色々か。

 それと、俺に対する呟きも色々と聞こえてきた気がするが、とりあえず最後の奴とは仲良くなれなさそうだ。


「ようこそお越しくださいました。私は検証班のデイトレと申します。失礼ながら、貴方様のお名前と、誰の招きでこちらにいらっしゃったのかをお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 と、ここで執事服を身に着けた白髪の若い男性が俺に話しかけてきた。

 検証班と名乗っているが、身のこなしがただものじゃない。

 たぶん、何かしらのプロだな。

 まあ、それはそれとして、紳士的な対応をあちらがしているので、こちらも見た目に沿う範囲ではあるが、紳士的な対応をするとしよう。


「俺の名前はトビィだ。この場にはハンネに呼ばれてきた」

「ハンネ様ですか。ただいま確認をしてまいりますので、確認が終わるまであちらの席へどうぞ」

「ああ、分かった」

 ハンネの名前を出した瞬間、俺に向けられる視線の割合が少し変わったな。

 たぶんだが、生粋の検証班はハンネが居なければ自分が対応したのに、と言う思いでもって、俺に対して熱意を含んだ興味を向けてきている。

 そして検証班の中でも何かしらの裏と言うか事情がある連中だろう、目の前のデイトレなんかは、俺に対する警戒度を上げているように思える。


「トビィ」

「ティガ、何も言うな」

「ブン。分かりました」

 まあ、こんなきな臭いゲームだからな。

 俺が政府の関係者なら、検証班のように情報が集まる場所に人員を仕込んでおくのは当然だ。

 俺に手を出してこないなら、こっちから殴ることは出来ないし、それなら気にしないだけだ。


「さて、待っている間にフロア6での成果物を確認しておくか」

「ブン。そうですね。あ、ウィンドウ表示をトビィ自身にしか見えないようにしておきます」

「おう、ありがとうな。ティガ」

 さて、デイトレさんの様子を見る限り、ハンネが俺の場所までやってくるのに多少の時間がかかるようだ。

 そして、他のプレイヤーたちが俺に話しかけてくる様子も見られない。

 と言う訳で、俺は第二坑道・ケンカラシのフロア6で手に入れたものの確認をしていく。

 まずはマテリアルである金からだ。



△△△△△

種別:マテリアル

分類:鉱石系


原子番号79、元素記号Au。

古くから人類が利用してきた金属の一つ。

とても柔らかく、よく伸び、電気を非常によく通すが、反応性は低い。

その完全性は科学の枠外にある力からの干渉に対しても十分なレベルで及ぶ。

▽▽▽▽▽



「ふうん……」

 金は、強度や硬度についてはファンタジー特有の強化は入っていないようだ。

 となれば、そのスペックは岩以下の可能性もある。

 使うとすれば、ゴーレムの腕そのものを金にするのではなく、リザードスキンのようなスキン系の装備を利用して、メッキのように貼り付けるのが正解であるように思えるな。


「これ、頭にメッキした状態でシープに鳴かれたらどうなると思う?」

「ブーン……防げる可能性はあると思います」

「まあ、そうだよな」

 で、金を運用するうえで重要そうなのは、ゴーレムに対しても有効な魔術原理の攻撃の他、酸による腐食など、各種状態異常に対して金は十分なレベルの防御能力を有していそう点だ。

 試してみないと分からないが、シープの鳴き声による睡眠攻撃を防げるのなら、他にも色々と防げそうであるし、メッキレベルでそれが成立するのならスキン系統の設計図を五枚揃えて、全身に張り付けるというのは普通に選択肢に入ってくる事だろう。


「次は……これか」

 次はブルーサハギンから手に入れたシャープネイルだ。



△△△△△

シャープネイル

種別:パーツ

部位:武装

対応:氷結-魔術-境界-強化


指に填めることで爪による鋭い斬撃のような攻撃を可能とする武器。

手で打撃ではなく斬撃を行えるのは利点だが、リーチや強度を考えると使うのは物好きだけだろう。


≪作成には同一のマテリアルが5個必要です≫

▽▽▽▽▽



「ふうん……」

 どうやらシャープネイルはナックルダスターの斬撃版に当たる武装のようだ。

 これならばマテリアルに余裕があるならば、左手に填める目的で作ってもいいかもしれない。

 爪による斬撃は殴りとは異なるので俺の趣味ではないが、それでも武器を使った攻撃よりはストレスが溜まらないし、手刀のような使い方をすれば拒否感はさらに減る。

 ゲームである以上、打撃攻撃が碌に通じない敵と言うのも往々にしているものだし、現に緑キパβも部分的にはそうだった。

 シャープネイルなら、その辺の解決が出来るだろうし……うん、やはり作っておくべきだろう。


「待たせたわね。トビィ」

「ハンネか」

 と、此処でハンネがやってきた。

 案外早かったな。

 まだアドオン二つと特殊弾『シールド発生』については見れていなかったんだが。


「さて、とりあえず二つ聞いておくわ。第二坑道・ケンカラシの攻略は終わった? 終わってるなら、称号を何個手に入れた?」

「前者はイエス。後者は三つだな。で、それがどうした?」

「そう、分かったわ。じゃあ、四階に移動しましょう。トビィの持っている情報はこの場で聞き耳を立てている連中には聞かせられないだろうから」

「ユーヒョッヒョッヒョウ。こいつは驚きだな」

「ブーン……」

 で、さっそく質問が来たので答えたのだが、ハンネのサポートAIであるヘールがなんかいきなり笑ってるな。

 まあいい。


「分かった。四階だな。それはそれとして、本格的な交換会をする前に手持ちの情報を確認しておいていいか? 第二坑道・ケンカラシが終わった足でこっちに来ているから、成果物の確認が終わってない」

「もちろん構わないわ。トビィの持っている情報は私にとってとても有益そうだもの」

 俺はハンネと一緒にエレベーターに乗り、完全な情報封鎖が可能であるらしい個室がある四階へと向かった。

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