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60:グリーンキーパー・ケンカラシβ-3

本日は三話更新になります。

こちらは三話目です。

「メギョアアアッ!」

「動きありか」

『ブン。そのようです』

 緑キパβの攻撃を避けて、シールドゲージを削り続けて暫く。

 とりあえず分かった事として、緑キパβは腕だけでなく顔もヒレも強固であり、目は殴れるような高さにないため、俺だとひたすらに胴体……特に鉄板の中心部分を地道に殴るしかないらしい。

 だが、緑キパβの攻撃は、この場が段差の多い環境であることも手伝って、今のところはほぼ避けられており、受けたダメージは岩のマテリアルを消費すれば動きながら回復できる範囲で収まっている。


「さて何が来る?」

 で、今は緑キパβのシールドゲージを半分まで削ったところなわけだが……。


「ツジッウオ!」

「っ!?」

 緑キパβが俺に向けて口を開いた。

 この時点で俺は脅威を感じ、横に飛び退きつつ、岩の陰へと移動を始めていた。

 直後、認識加速が発動。

 俺の体があった場所に向かって、氷混じりの水がレーザーのように真っすぐ伸びつつあるのと、緑キパβの額にある目が横に跳んでいる俺の姿をしっかりと捉えているのが見えた。


「やばっ」

「ツツツ……ツウゥゥジイイィィ!」

 俺は反射的に火炎瓶を緑キパβに向かって緩やかな弧を描くように投げつける。

 すると緑キパβは口から水を吐き出したまま顔の方向を変えていき、宙にあった火炎瓶を切り裂き、凍らせ、着弾点と火炎瓶が冷気をまき散らしながら爆散。


「ふぅ。ギリギリだったな」

『流石の反応スピードです。トビィ』

 危ないところだった。

 こちらが回避した先に水を放ってくる可能性を考えていなければ、緑キパβの目の動きに気づかなければ、相手が投擲物の迎撃を優先する思考ルーチンであると分かっていなければ。

 今の一撃で俺は爆散していた。


「エンバギリャアッ!」

「仕掛けた方がいいな。他にも何かあるはずだし、機会は減らした方がよさそうだ」

 緑キパβがこれまでよりも大量の氷の円盤を放ってくる中、俺は火炎瓶を投擲し、氷の円盤を隙間を縫うようにして移動することで回避しつつ接近。

 これまでと同じように右のナックルダスターで鉄板の中心を殴りつける。

 さて、これで今まで通りなら両腕の円盤を回して逃げるわけだが……。


「ヒ、ヒ……」

「やっぱり変えてくるか!」

 回転音が違う。

 片方の腕の回転音が違う。

 これは……逆回りか!?

 なら、何をやってくるのかも確定した。

 俺は即座に距離を取り始め……。


「ヒギョギョギョギョッ!!」

「うおっ!?」

 直後に緑キパβが超信地旋回。

 両腕の間を中心点として、周囲を尾びれで薙ぎ払うように高速回転する。


「だがチャンスだ!」

「ギョガァッ!?」

 これもまた巻き込まれればただでは済まない攻撃だった。

 だが、これまでと違って距離は出来ていない。

 故に俺は回転している緑キパβに火炎瓶を投擲して燃やす。

 そして、その炎に驚いて動きを止めた緑キパβに近づいて……。


「うおらあっ!」

「ギョッ!? ヒ、ヒ……」

 時間がある事によってこれまでよりもしっかりと体勢を整えた一撃を叩き込む。

 するとまた緑キパβの両腕が回り始め……今度はどちらも逆回転。

 つまりは後退だ。


「ヒギョギョギョッ!?」

「後ろに壁があるのに気づかなかったか?」

 が、緑キパβの後ろには壁があった。

 なので緑キパβの動きはそこで止まり、それを予め察していた俺はこれまでと違って緑キパβから離れることなく攻撃を避け切った。


「燃えて眠れっ!」

「ヒシュ……」

 本当にチャンスだ。

 流れが来ている。

 ここで削れるだけ削っておきたい。

 なので俺は緑キパβの全身各部に向かって火炎瓶を投げつける。

 逃げようとした緑キパβにハードバトンを叩き込み、特殊弾『睡眠』によって短時間ではあるが、体が燃えていてもなお逃れられない眠気に襲わせる。

 その上で、動きが鈍った鉄板の皮膚の一枚、脇近くの、内臓に近く、動かない脂肪と肉が薄い場所に狙いを定めて……。


「ウオラララララララララアッ!!」

「!?」

 両腕を使った連打。

 所謂ラッシュを叩き込んでいく。

 両腕の有する電撃はその効果をいかんなく発揮し、衝撃と電撃を緑キパβの体内へと伝えていく。

 それらが実際に内臓を傷つけても、シールドゲージがある限りはなかった事にされる。

 だが、これまでの経験上、なかった事にする現象が大きな現象であればあるほどにシールドゲージは大きく削られる。

 そして、内臓へのダメージと言う、本来ならば命に直結するダメージの無効化は、正にその大きな現象だ。

 故に、俺が攻撃を叩き込む度に、火炎瓶による燃焼も相まって、緑キパβのシールドゲージは勢いよく削れていく。

 更に、目覚めようとする緑キパβに対してハードバトンによる特殊弾『睡眠』も適宜打ち込んでいき、拘束時間を延長して、削りを加速させる。


「ヒギョギョギョギョギョッ!!」

『トビィ!』

「っ!?」

 が、ラッシュを仕掛けられるのは此処までのようだ。

 特殊弾『睡眠』が弾切れになると同時に、緑キパβは体に着いた火を消すようにしつつ離脱。

 攻撃に熱中していた俺は回避が遅れ、後ろ足のヒレによって右足が打ち砕かれ、転ぶ。


「ティガ。回復は?」

『ブン。可能です。ですが、30秒ほどかかります』

「分かった」

 俺は緑キパβが水上に移動、自身の下の水を凍らせることで水上に立っている事と、シールドゲージが残り1%あるかないかぐらいであるかを確認しつつ、手近な岩陰に退避。

 更に、緑キパβの視界に入らないように注意しつつ、岩陰から岩陰への移動も済ませておく。

 で、それから右足の回復を待つ。

 待つが……。


「エンバギ……ツジッウオ!」

「おおっ、発狂モードって奴だな。こりゃあ」

『トビィ……あれを見てよくそんな事を言えますね……』

 最初に俺が居た岩陰に向かって緑キパβが攻撃。

 全方位から氷の円盤が迫ってきて逃げ場がほぼ無い状態にした上で、口から氷水のレーザーを照射、俺が居る場所まで冷気が伝わってくるレベルの大爆発を起こす。

 うんまあ、ティガに悪いが、別に怖くないな。

 俺にとっては小技も大技も大して変わらないし。

 それよりもだ。


「ギョーギョーギョー……」

 流石に大技だけあってリスクもあるらしい。

 緑キパβは氷の上で全身の力を抜き、気怠そうにしている。

 足は……直りきってないな。

 だが、直るのを待っていたら、緑キパβも復活してしまいそうだ。

 じゃあ、こうするしかないな。


「おらぁっ!」

「!?」

『トビィ!?』

 俺は岩陰から飛び出し火炎瓶を投擲。

 脱力状態の緑キパβは火炎瓶を迎撃できず、直撃。

 体が燃え上がって、残り僅かなシールドゲージは底をつき、緑キパβのシールドが消滅する。


「さあ、トドメだ」

『まさか……』

「ギョ……ヒツ……テパ……」

 俺はそれを確認した上で、角度を調整してデイムビーボディの針を破壊不可能である壁に押し当てる。

 緑キパβはもう復活する直前だ。

 だがこれなら……この方法なら間に合う。


「ファイアッ!」

 デイムビーボディの針が突き出される。

 だが、坑道の壁は破壊不可能である。

 するとどうなるか?

 マテリアルタワーに叩きこんでも俺が吹っ飛ぶほどの反動が来る攻撃の勢いが、元からの反動と組み合わさる形で俺の体にかかるのだ。

 つまりは桁違いの勢いで俺の体は吹っ飛ぶ。

 しかし、ケットシーテイルが地面に触れ続けていることで俺の体は坑道に触れていると判定されて、減速することも高度を下げる事もなく吹っ飛び続ける。


「ギョアッ!?」

 緑キパβを戦うにふさわしい程度に広い部屋を駆け抜けていく。

 水上に飛び出して、ケットシーテイルが地面から離れてもこれまでの勢いでもって飛び続けてしまう。

 そして俺の体は緑キパβの鼻先にたどり着き……。


「終わりだ。緑キパβ」

「!?」

 突き出された右のナックルダスターは鼻を潰し、鼻先の目を潰し、額の目を潰し、脳を潰し、俺の体を緑キパβの胴体内部にまで押し込み、拳の威力を示すようなこれまでにない大きさの稲光が緑キパβの体を焼いて、そこでようやく俺の動きは止まった。


≪設計図:アドオン『斬撃強化』を回収しました≫

 で、撃破報酬のアナウンスと共に緑キパβの体は雪の結晶に変化するように消え去っていき……それに伴って俺の体は勢いよく水底に向かって行き……。


「ごぶうっ!?」

『ビイィィ。トビィ。モロトフラック破損です』

 背中から落下したことで、モロトフラックが壊れた。

 こ、ここが水中でよかった。

 地上だったら背中が大炎上して、勝ったのに大惨事になるところだった。

 俺は多少の呆れを含んでいるティガの声を聴きつつ、内心で少々の冷や汗をかきながら、右足が直るのと、デイムビーボディのデメリットが解消されるのを水底で待つ事にした。

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