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59:グリーンキーパー・ケンカラシβ-2

本日は三話更新になります。

こちらは二話目です。

『トビィ!』

「自走式兵器の類か!」

 緑キパβの両腕から放たれた、刃が付いた氷の円盤は地面に着くと同時に激しく回転、地面と刃が噛み合って、前方へとランダム性を持ちながら突っ込んでいく。

 そう、ランダム性をもってだ。

 まっすぐ前に突っ込んでいくものもあれば、僅かにカーブしていくもの、激しくバウンドするもの、早々に横転した上で他のものを加速させるものなど、氷の円盤はどれ一つとして同じ動きをせずに俺へと迫ってくる。


「という事は……」

 だが、ケットシーテイルのおかげで機動力が上がった俺ならば、回避に専念すれば十分に避けられる密度。

 なので俺は緑キパβから離れるように、目的の通路へと近づくように、左右、後ろ、斜めと跳んで、氷の円盤を避けていく。

 そして、横転などして完全に動きを止めた氷の円盤からも離れる。


「メッシュウゥ!」

 緑キパβが甲高い声で鳴く。

 と同時に動きを止めた氷の円盤が震え出し……爆発した。


「やっぱりか!?」

『ブブ。予想の範疇内なのですね』

「まあ、この手の後に残る遠距離攻撃の定番だからな」

 氷の円盤からだいたい1メートルぐらいの範囲に大量の冷気が立ち込めている。

 定番なので予想しておき離れておいたから今回は大丈夫だったが、緑キパβがダメージを負っていけば、凶悪化する可能性は想定しておこう。

 とは言え、そもそも逃げ切れれば問題はないわけだが。


『トビィ。通路の先が……』

「ティガ。俺って割とクズ運してるよな。こういう時限定だとは思うが」

『ブーン、どうなのでしょうか……?』

「シギョギャリギャリッ」

 そう思って通路の前まで来て、俺は緑キパβの戦闘が避けられないと理解した。

 通路の先に脱出ポッドが見えてしまったのだ。

 それはつまり、この部屋と脱出ポッドのある部屋が障害物のない直線的な通路で繋がっており、氷の円盤を走らせることの出来る緑キパβならば脱出ポッドまで攻撃を届かせることが不可能ではなく、俺の脱出を阻止できてしまう位置関係にあるという事だから。


「エンバギリャアッ!」

「まあいい。だったら無被弾で殴り倒してやるだけだ」

 緑キパβから再び氷の円盤が放たれ、部屋の中を駆けてくる。

 だが、一度目よりも距離があるし、極端なカーブによってUターンしてくる円盤も警戒しているので、俺は問題なく避けつつ、緑キパβとの距離を詰めていく。


「うおらぁ!」

 そして、ある程度の距離が詰まったところで、モロトフラックから火炎瓶を取り出して投擲。

 火炎瓶は放物線軌道を描いて綺麗に飛んでいき……。


「ツジッウオ!」

『ブブ。撃ち抜かれました』

「予定通りだ」

 その途上で緑キパβの口から放たれた氷混ざりの水によって撃墜された。

 火炎瓶は割れたが、消火されていたので不発。

 そもそも燃える範囲にも捉えられていない。


「こうして距離を詰められたんだからな!」

 だが、緑キパβが迎撃行動をとっている間に俺は接近。

 モロトフラックに付けておいたハードバトンを手に取り、特殊弾『睡眠』を発動。


「うおらぁ!」

「メウッ!?」

 そして緑キパβの顎を殴打。

 水色で、Zの文字や煙のマークが浮かぶ、睡眠のエフェクトが発生。

 緑キパβは殴られた衝撃に驚きつつも、重たくなっていく瞼に抗えず、全身の力を抜いていく。


「これで……」

 特殊弾『睡眠』はきちんと決まった。

 これで効果時間が十分な長さであれば、このまま緑キパβは放置して脱出ポッドに逃げてもいいかもしれない。

 そんな事を考えつつ、ハードバトンをしまいながら俺は後方に跳んで……。


「ヒシュ……」

「倒すしかねえよなぁ! ちくしょうめ!!」

 緑キパβの全身が弛緩しきると同時に目覚め始めたのが見えた。

 という訳で、後ろに跳んだ勢いそのままに、今度は相手の胸元に向かって跳躍。


「うおらあっ!」

「メギョガッ!?」

 突っ込んだ勢いを乗せた右のアッパーカットを、眠りに落ちると同時に動きを止めていた胴体の鱗部分に叩き込む。

 稲妻のエフェクトが飛び散り、緑キパβが声を上げ、俺は反撃が来る前にと退く。


「メギョアアアアッ!」

 で、退きつつ殴った時の感触を反芻するのだが……緑キパβの胴体はかなり面倒そうな防御能力を持っていそうだ。

 返ってきた感触からして、たぶんだが、羊毛、鱗、鉄板で防御の得意不得意がありそうなのだ。

 具体的に言えば……。


「羊毛は対打撃特化。鱗は満遍なく。鉄板は対斬撃と対刺突であり、打撃も中心に向かって正確に打ち込む必要がありそうか」

『ブ……たった一発でよく分かりますね。トビィ』

「脂肪や肉の付き方で衝撃の伝わり方が違うから、慣れれば分かる」

 なお、正確に述べれば、羊毛の下には分厚い脂肪があって、脂肪の下まで通せる刺突攻撃でなければ効果は薄いだろう。

 鱗の下は肉と脂肪が程よく混ざっていてある程度は打撃も通るのだが、鱗は程よい堅さと柔らかさを併せ持っていたので、鱗と鱗の間を通せるような斬撃が正着か。

 鉄板は直ぐ下に肉が詰まっていて、殴ればよく衝撃が通り易そうだったが、外縁部ほど鉄板に厚みがありそうだったので、中心を正確に殴る必要があるだろう。

 それと、鉄板と鉄板の隙間へと迂闊に剣や槍を差し込めば、あっさりと刃を折られるに違いない。

 つまり、緑キパβの胴体は、物理攻撃で仕掛ける場合には、適切な攻撃を適切な場所へと叩き込まなければ効果が低いという、面倒な性質を持っているという事だ。


「ヒ、ヒ……」

「げ、まさか……」

 さて、今の二回の攻撃で削れた緑キパβのシールドゲージは1%ほど。

 特殊弾『睡眠』は残り五発。

 短時間でも動きを止められるの確かなので、この五発は大切に使っていきたいところだ。

 で、緑キパβのシールドゲージが見えるほどに距離を取った俺の目には、緑キパβが両腕を大きく広げると共に、構成する円盤を激しく回転させている姿が見えた。


「ヒギョギョギョッ!!」

「っ!?」

 俺は咄嗟に手近な岩の陰に入り込み、そこで全身が隠れるようにしゃがんだ。

 直後、緑キパβの巨体が俺の頭上を猛スピードで通過。

 その後、急ブレーキとスピンを思わせるような音がする。


「その巨体で突進か。てか、あれだけの防御を持っている癖に、近接戦闘はお断りなのか」

「エンバギリャアッ!」

 立ち上がった俺の目には、戦闘開始時と同じくらいに距離が離れた緑キパβの姿が映った。

 そして、緑キパβは氷の円盤を投げつけてくる。

 その軌道は最初の時のようにランダム性を持っているものが大半だが……。


『完全に敵だと判断されたようです。トビィ』

「はっ、狩られるだけの獲物と思われているよりはマシだ」

「シギャアッ!」

 明確にこちらへと向かってきているものも多い。

 どうやらきちんと狩るべき相手だと判断されたらしい。


「ガンガン攻めていくぞ」

『ブン。分かりました』

「ツジッウオ!」

 俺は再び火炎瓶を投擲。

 緑キパβが火炎瓶を迎撃している間に駆け寄っていく。


「プウゥオッ!」

「っ!?」

 が、殴れる距離に入る前に緑キパβは上体を起こし、その手を勢いよく叩きつけてくる。

 間一髪で避けたが……微妙に体が削れているな。


「だが隙だらけだ!」

「メギィ……」

 しかし、その叩きつけの動作は明らかに隙だらけだった。

 なので俺は素早く反撃。

 緑キパβの手を殴りつけてみるが……やはり堅いな。

 シールドゲージは減っていないように見えるし、これはこちらの攻撃を当てる部位じゃないな。


「ヒ、ヒ、ヒギョギョギョッ!」

「っ!?」

 と、此処で緑キパβは再びの突進。

 俺は急いで岩陰に隠れて回避。

 どうやら、緑キパβはどのような攻撃を受けたにせよ、攻撃を受けたら突進によってこちらとの距離を開こうとする性質があるらしい。


「これなら……行けるな」

『ブーン。気を付けてください。トビィ』

「シギョギョギョッ!!」

 だがそうと分かれば、手の打ちようもある。

 俺は再び火炎瓶の投擲から仕掛けていく。

 暫くはこれで削っていくとしよう。

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