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57:ブルーサーディン

「さて次の部屋はどうだろうな」

『何があるでしょうね?』

 青銅と緋炭石を回収した俺はフロア6の探索を進めていく。

 ただ、部屋に入るときは、敵が居た時に備えて、可能な限り通路から中の様子を窺ってから入るようにする。

 で、何もない部屋、大したものが入ってなかったレコードボックス、何もない部屋と来て……。


「……」

『……』

「「「サササササ……」」」

 その次の部屋の様子を通路から窺ったところ、俺は素早く通路に体を隠したところで閉口した。

 いや、でもね、うん。

 俺の反応は当然のものだと思うんだ。


「魚だったな」

『魚でしたね』

「色は青だったよな」

『青でしたね。つまり、ランクはブルーです』

「大きさは……30センチぐらいだったか?」

『ブン。それぐらいでしたね』

 部屋の中には青を主体とした色合いの魚が居た。

 魚の癖に空を泳ぐように滞空し、空気中でエラ呼吸もしているが、間違いなく魚だ。

 まあ、その辺は魔物だからで流してしまえばいい。

 問題はだ。


「で、アレは全部で一体と言う群体型の魔物か?」

『一体一体にシールドゲージがあったのを確認したので、別々の魔物でしょう』

「見るからに100体以上居たのに?」

『ブン。それでも一体一体個別の扱いのようでしたねぇ』

 そんな魚が100体以上部屋の中に居て、巨大な蛇のようにも見える形で群れを成していたのである。

 しかもティガ曰く、群れの個体は一体一体きちんと別の個体であるらしい。


「一斉に襲われたら……死ぬよなぁ」

『死にますねぇ。仮にシールドがあっても一瞬かと』

「数の暴力が発揮されるからなぁ」

『一体一体の攻撃力が低くても数が二桁違いますからねぇ』

 うん、絶対に勝てない。

 仮にこちらが拳や火炎瓶で何匹か一度に狩れたとしても、その10倍の数で反撃を仕掛けてくるような相手なのだ。

 優秀な範囲攻撃の類が無ければ、どうにもならないだろう。


「ちなみにあいつらの名前は?」

『ブルーサーディンですね』

「イワシかぁ」

『ブルーサーディンです』

 なお、種族としてはイワシらしい。

 確かにイワシは群れる魚なので、魔物になっても群れを成しているのは自然なことであるのかもしれないが……。

 うん、あまりにも多すぎる。

 対策なしでアレは無理。

 素直に別の部屋から探索を進めよう。


「さて別の部屋……折角だから、水中の通路を進んでみるか」

『ブン。気を付けて進んでくださいね』

 という訳で俺は通路を引き返し、途中の水路の中に通路を見つけたので、そちらから奥へと進んでみる。

 水中の移動は多少抵抗は大きいようだが、ゴーレムの体なら自然と沈むため、動くのにそこまで支障は感じない。


「水中でも通路の構成は変わらない感じか」

『ブン。そうなりますね。ちなみに水中ではモロトフラックは使えませんので、覚えておいてください』

「まあ、燃料と言うか強力な酸化剤が含まれていない火炎瓶だし、水中でも燃えれるほどの火力は無いよな」

 当然と言えば当然だが、水中ではモロトフラックは使えないらしい。

 それに先ほどのサハギンが水中銃を持っていたことを考えると、普通のマスケット銃やリボルバーも水中では機能停止かそれに準ずる程度には弱体化してしまうのかもしれない。

 で、さっき見かけたばかりのイワシの群れと、わざわざこうしてティガが警告をしてきたという事は、水中でも戦闘が発生しうるという事だ。

 しかし、水中で戦闘となると……俺の場合は地道に殴るしかないか。


「と、真鍮のマテリアルタワーがあるな」

 と、ここで部屋に出た。

 部屋の構造自体は陸上のものと変わらないが、天井まで水で満たされている。


「さて、殴れる回数と時間は……ん?」

 俺はマテリアルタワーに手をかざし、攻撃回数と時間の制限を確認してみた。

 そして気づく。


「真鍮じゃなくて金……だと……」

『ブン。金ですねぇ。ただトビィ、制限を見てください』

「ん? ああ、なるほどな……」

 目の前のマテリアルタワーは真鍮ではなく金だった。

 水中であること、接触できないことが重なった結果として、見た目だけでは俺には分からなかったようだ。

 そして制限だが、攻撃回数は一回であり、時間制限は0秒表示となっている。

 つまり、一撃しか加えられないという事だ。


「これ、所謂レア枠って事か」

『ブン。そういう事でしょうね』

 金は現実の希少性、各種ゲームでの立ち位置、目の前の制限からして明らかに貴重品だ。

 もしかしなくても、第二坑道・ケンカラシではフロア6でしか手に入らないとか、そういう制限もかかっているかもしれない。

 となれば、特別な用途や高い性能も期待できるかもしれない。


「水の流れは……大丈夫そうか」

 破壊を試みる前に周囲を確認。

 危険は……なさそうだな。

 であれば、俺の趣味ではないが、金の希少性を鑑みて、出来るだけの攻撃を撃ち込むべきだろう。


「位置、角度、よし。ファイアッ!」

 という訳で、俺は金のマテリアルタワーに針の先を向け、四つん這いの状態になり、針を撃ち込んだ。

 金のマテリアルタワーに針が当たり、周囲に金が飛び散り、俺の体も水中と言う抵抗が非常に大きい空間であってもなお、軽く浮き、揺らぐ。


≪鉱石系マテリアル:金を5個回収しました≫

「おっ、結構拾えたな」

『ブン。美味しいですね』

 俺は金を回収すると、さらに奥へと向かった。

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