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56:青銅のマテリアルタワー

本日は二話更新になります。

こちらは二話目です。

『しかし、トビィは本当に動きが変わりましたね』

「そりゃあ変わるだろうさ。これまでに出来ないことが出来るようになったんだからな」

 俺は通路を軽快な足取りで進んでいく。

 多少の段差を飛び越え、クランク状になっている通路を横っ飛びで素早く抜け、天井が低い場所を前方飛び込み前転であっという間に通り過ぎる。

 いずれもこれまではゴーレムの仕様の都合上出来なかったか、かなり難しい動きだったものである。

 こういう機動力を数字で表すのは難しいが……最低でも倍にはなった事だろう。


「ただ、まだまだ不満点があるというか、割と制限はかけている感じだけどな」

『ブブ!? そうなんですか!?』

「そうだとも。本音を言えば……」

 ただ、これらの動きは左足の踵に付けたケットシーテイルが坑道に触れているからこそ出来る動き。

 ケットシーテイルが坑道から離れてしまえば、これまで通りにゴーレムの体は一気に重くなり、恐ろしい速さで落ちることになる。

 それを利用して普通の人体では不可能なレベルでしゃがむと言う小技もあるが、それは置いておいて。

 つまり、ケットシーテイルの50センチと言う長さが新たな制限として存在しているのだ。


「ケットシーテイルと同じ用途で使えるパーツが、最大2メートル、伸縮自在、可能なら実体は有していないという形で欲しくなるな」

『ブ、ブーン……それは流石に……』

「探せばあるかもしれないだろう? そういう素材やパーツが」

『まあ、それはそうですが。でもそこまで行くならいっそ制限を一切なくす方向で考えた方がいいのでは?』

「急速降下や重量増大が出来ないのもそれはそれでデメリットだから、出来れば任意の方向で行きたいんだよなぁ」

 この50センチと言うのは、正直なところ非常に短い。

 跳び方やケットシーテイルの動かし方もあるが、操作ミスまで考えると、現実的に跳べる高さは精々30センチ……いや、20センチがいいところだろう。

 これは多少の凹凸がある程度の環境であれば十分な高さであるかもしれないが、少しでも凹凸が激しい環境であれば、引っかかりかねない高さだ。

 それに垂直跳び50センチと言うのも低いし……やはりもっと高さが欲しいところではある。


「と、マテリアルタワーだな」

『ブン。緋炭石と青銅ですね』

 と、そうして話をしている間に次の部屋に到着。

 緋炭石と青緑色の金属……青銅のマテリアルタワーが立っている。


「……」

『トビィ?』

「いや、青銅だからと言って青緑色なのはなぁ、と改めて思っているだけだ。この色はブロンズが錆びたからこその色だしな」

『ブーン。まあ、それはそうなのですが、そこは分かり易さの優先と言うものなのでしょう』

「まあ、そういうもので流しておくか」

 俺は青銅のマテリアルタワーに手をかざす。

 接触回数は3回で、時間は30秒か。

 これだったら……一度デイムビーボディの針を試してみるか。

 岩製だから強度的には微妙かもしれないが、デメリット含めて試しておきたいからな。


「じゃ、やってみるか。おらぁ!」

 俺は右拳のナックルダスターで青銅のマテリアルタワーを勢い良く殴りつける。

 すると、ナックルダスターが真鍮・電撃製であるおかげか、大量の青銅が飛び散る。


「せいっ!」

 そのまま一回転。

 もう一度ナックルダスターを叩きつけ、一度目と同じように大量の青銅が飛び散る。


「すぅ……」

 で、半回転し、臀部から生える蜂の腹部、その先端にある針の先を青銅のマテリアルタワーに向けるように前屈。

 針と胴体と頭が一直線に並ぶようにして、衝撃に備える。


「ファイアッ!!」

 そして俺はデイムビーボディの針を放った。

 で、直ぐに悟った。


「あ……」

 これはヤバい奴だ、と。


 衝撃が尻、腰、胸、首、頭へと突き抜けていく。

 両足が地面から離れる。

 視界内の床が、壁が、高速で動き出す。

 全身が風を感じる。

 そして気が付けば床が目前に迫っていて……。


「のわあああああぁぁぁぁぁっ!?」

『トビィ!?』

 俺はとっさの判断で前転。

 十数回転し、壁にぶつかり、そこでようやく止まった。


「あ、危ないなんてものじゃ……」

 危なかった。

 本当に危なかった。

 何だ今のは。

 俺はパイルバンカーか何かを撃ったのか?

 と言うかこれ、撃ち方を間違えたら、腰のあたりで体が千切れていたんじゃないか?

 撃ち方を間違えた場合の光景を想像して、俺は自分の頬がヒクつくのを感じた。


「ぐっ……」

 おまけに体が重い。

 全身に鉛を巻き付けているかのようだ。

 どうやらこれがデイムビーボディのステータス低下のようだ。


「ティガ。燃料は?」

『ブーン。今の一回で燃料を20消費してますね。インベントリの緋炭石を使って補給しておきます』

「お、おう……一発で燃料20消費の上に、この怠さか。こりゃあ、迂闊に使えないな……」

 どうやらデイムビーボディの針は正に切り札とでも言うべき性能のようだ。

 実戦でいきなり試さず、此処で使っておいて良かったな。

 そして、威力も切り札に相応しいものであるらしい。


「凄い量が転がってるな……」

 青銅のマテリアルタワーが立っていた方を見た俺の視界には、大量の青銅が転がっているのが見えた。


『ブン。そうですね。頑張って拾い集めてください』

「そうだった……」

≪鉱石系マテリアル:青銅を53個回収しました≫

≪特定物質:緋炭石を42個回収しました≫

 その後、ステータス低下が治ってから緋炭石のマテリアルタワーも破壊し、両者を回収したわけだが……本当にデイムビーボディの針の威力は凄まじいらしい。

 今後も使うべき場面では使わないなんて言っていられないな、これは。

 後、やはり今回で第二坑道・ケンカラシは攻略して、マテリアルの回収を楽にする手段は手に入れたいところである。

 100個近いマテリアルの回収は流石に面倒だ……。

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