55:ブルーサハギン
本日は二話更新になります。
こちらは一話目です。
「ギョッギョー!」
「流石」
俺が投げ入れた火炎瓶は、こちらの動きを素早く察したブルーサハギンが撃った水中銃によって容易く撃ち抜かれ……いや、その前に認識加速が発動したか。
「複眼の仕様か……」
恐らくはデイムビーヘッドに備わっている複眼の効果だろう。
認識加速が発動したのは、水中銃が放たれ、筒から銛が出切った瞬間だった。
反応が恐ろしく早い。
とりあえず火炎瓶と銛の軌道からして、火炎瓶が撃ち抜かれるのは確定だし、割れた火炎瓶の燃料がサハギンたちに当たらないのも確定だ。
『ブン。認識加速中でも通じるように高速で音声を届けますが、これがデイムビーヘッドだからこその認識加速です。目の性能が良すぎるため、認識加速の持続時間がとても長くなってしまうし、反応もしやすいのです』
「だろうな。ま、問題はないが」
火炎瓶周りが確定しているから他を見る。
ブルーホーネットたちは俺の姿を捉えて、三方から俺に襲い掛かろうとしている。
普通の銛のサハギンは真正面から、爪のサハギンは左右にステップを刻みつつ斜め前から俺に襲い掛かろうとしている。
水中銃はまだ撃った直後の姿勢のまま、少なくとも数秒は無視していい。
そうして水中銃の銛によって火炎瓶が破壊され……。
「火炎瓶二発目。回避。からの……」
「「「!?」」」
認識加速終了。
二発目の火炎瓶を普通の銛持ちに向かって投げて牽制。
三体のホーネットの尾の針による同時攻撃を、一歩前に両脚が地面から離れるレベルの素早いステップでもって回避。
そして、鈍重なゴーレムが素早いステップを踏んだことによってか、動きが乱れて急停止した爪のサハギンの攻撃をさらにもう一歩ステップを刻むことで、背後に回り込むように回避。
「電撃ジャブで」
「ギョッ!?」
で、隙だらけの脇腹に左手で一撃を叩き込み、稲妻のエフェクトと共に爪のサハギンの動きを止めたので……。
「電撃ストレートだ!」
「ギョガアッ!?」
右のナックルダスターで全力攻撃。
稲妻のエフェクトを纏いながら、爪のサハギンが吹っ飛んでいき、シールドゲージが破壊される。
「「ギョギョオッ!」」
「「「ブブブ!」」」
「ギョアッ!」
「やっぱりシールドは便利そうだなぁ。今ので死なないなんて」
うん、綺麗に決まった。
決まったが、爪のサハギンはほぼ無傷の状態だ。
どうやら、あれだけ綺麗に決めても、ブルーのランクにある魔物相手ではシールドゲージを削り切るのが限界のようだ。
「「「ギョガアアァァ!!」」」
「「「ブーン!!」」」
『トビィ。来ますよ』
「分かってる」
再び魔物たちが仕掛けてくる。
だが今度は水中銃も同時にだ。
しかし、何も問題はない。
「「「!?」」」
「ま、見えて走れるなら避けられるし、殴れる。こんな鈍重な攻撃は全部攻撃のチャンスだ」
『そ、そうですか……』
俺は水中銃のサハギンの引き金と銃口をよく見ることによって、発射と同時に回避を確定させる。
通常ではあり得ない速さでしゃがむ事によってホーネットたちの攻撃を回避。
突き出された銛を斜め前方にダッシュする事で回避。
前傾姿勢のまま近づいた爪のサハギンの攻撃を左腕で弾き……。
「うおらぁ!!」
「ーーー!?」
右のナックルダスターによるアッパーで爪のサハギンの頭部を粉砕した。
「「「……」」」
「さあ来いよ雑魚共。俺はシールド無しなんだ。一発当てられればそのまま倒せるぞ?」
そして生身のような軽やかさでもって着地。
微笑み、残る魔物たちを挑発する。
「「ギョガアアァァッ!」」
「「「ブウウゥゥ!」」」
「ははっ」
『これは……凄まじいですね』
さて、そろそろ何故俺がゴーレムで走り、跳ねる事が出来るのか、その秘密を明かしてしまおう。
と言っても、理屈は極めて単純。
左足の踵にケットシーテイルを装着し、その時々に合わせて動かすことによって、坑道に触れている状態を保っているだけだ。
なぜなら、ゴーレムが坑道に触れているかどうかの基準になるのは、体の何処かが触れているかであって、その何処かは規定されていないのである。
そして、これが出来るようになったおかげで、ケットシーテイルが地面に触れている必要こそあるものの俺の取れる動きは大きく変わった。
「遅い! 遅い! 遅い!! そもそも密度が足りてねぇ!! 話にもなってねえぞ! お前ら!!」
「「「……!?」」」
走る、ステップを刻む、跳ぶ、異常な速さでしゃがむ。
これらが出来るようになったことで、俺はサハギンの攻撃もホーネットの攻撃も容易に避けられるようになった。
そう、サハギンの銛を拳一つ分の余裕をもって避け、ホーネットの針を狙いが定まると同時に飛び退く事で躱し、飛んでくる銛は撃たれた時点で脅威でなくできた。
そして、その上で素早く反撃を打ち込めるようにもなった。
右手がサハギンの顔を潰し、腹を吹き飛ばし、ホーネットの頭を叩き、翅を曲げることが出来るようになった。
そんなわけで、当たり前と言えば当たり前の話だが、はっきり言ってしまおう。
相手の攻撃を全て避けて、こちらが一方的に攻撃を叩き込めるのなら、一撃でこちらを殺せる敵なぞ恐ろしくもなんともないのである。
「ハハハハハッ! 自由に動き回れるようになった上で殴り放題ってのは本当に最高だ!!」
『ブ、ブーン。両脚を地面から離せるようになっただけでこれほどに変わるとは……』
「「「……」」」
そうして多少の時間はかかったものの、俺は全ての魔物を殴り倒した。
こちらは無傷。
完勝である。
≪設計図:シャープネイルを回収しました≫
≪生物系マテリアル:肉を1個回収しました≫
≪設計図:特殊弾『シールド発生』を回収しました≫
≪生物系マテリアル:鱗を1個回収しました≫
≪生物系マテリアル:甲殻を1個回収しました≫
≪設計図:ホーネットレッグを回収しました≫
「おっ、しかもここでシールドの特殊弾が出たか」
『ブン。よかったですね。トビィ』
そして完勝の褒美だろうか。
今回の探索の目的である特殊弾『シールド発生』が手に入った。
これで対応するパーツがあれば、俺もシールドを使えるようになった。
それとホーネットレッグはともかく、シャープネイルは……俺に合いそうな雰囲気があるな。
うん、とても美味しい。
「さて、次の部屋に行くぞ。ティガ」
『ブン。分かりました』
では、相手がブルーだけであっても勝てることが分かったし、次の部屋へ向かうとしよう。