54:フロア6開始
「さて今回は……通路スタートか。で、凹凸がやけに激しいな」
『ブン。これは洞窟の構成ですね』
「洞窟か」
第二坑道・ケンカラシのフロア6の構成は、今回は洞窟であるらしい。
降りた場所は通路だが……坑道の通路とはかなり違うな。
通路の床、天井、幅、いずれも凹凸の範囲では片づけられないレベルで変動があり、狭い場所では体を細めたり、屈んだりしなければ通れないようになっている。
これは迎撃する場合には有効活用できるかもしれないが、逃走する場合には致命的な引っかかりになりそうな気がするな。
「水音?」
『ブン。どうやらただの洞窟ではなく、水場が存在している洞窟のようですね』
また、耳を澄ましてみると、どこからか水音が響いている。
どうやら何処かで水が流れているらしい。
『ブーン。そうなると、このマニュアルは必要でしょうね』
「ん?」
と、ここでティガからマニュアルが送られてくる。
内容は……水場における注意か。
これは確かに知っておいた方がいいな。
ゴーレムは体のどこかが坑道に触れていないと、体が本来の重量を取り戻したり、重力加速度が増大するなどして急速落下するのは、もうよく知っている事。
では、そんなゴーレムが水中に入ったら?
「水そのものは問題ない。が、ヘドロなどに足を取られて沈めば死、か」
『ブン。そうです。あるとは限りませんが、気をつけてください』
泳ぐことはまず不可能であるのは……まあ、ゴーレムの重量なら当然なのでどうでもいい。
ゴーレムは呼吸をしないので、水中活動そのものは可能。
ただの水であれば、ゴーレムに備わっている機能によって、粘土のパーツが水に溶けてしまったり、金属製のパーツが錆びるような事もない。
問題は水底に沈んでいる事があるヘドロなどの類。
これらは地面のように見える事があるかもしれないが、実際は地面ではない。
なので、全身がこれだけに触れているような状態になると……沈む。
その上、体に絡みつく。
粘性があるので這い上がろうとするが、ゴーレムの重量もあって、もがくほどに沈む。
事実上の底なし沼であり、脱出不可能な領域となっている。
であるため……そういう状況に陥った時点で、死亡判定を食らい、ラボに戻されるそうだ。
『ちなみに流砂や大量の新雪と言った物体でも同じようなことは起きえますので、注意してください』
「了解。要するに、足場がしっかりとしていない場所にゴーレムで踏み込むなって事だな」
『ブン。その通りですね』
まあ、要するに、水場には水場特有の即死エリアが存在しているので、対策が無い時には注意をしろという事だ。
うん、分かり易いな。
「よっと」
さて、そんな会話をしつつ、全身を使って段差を乗り越え、体を縦にして岩の隙間に体を滑り込ませ、と言う動きでもって俺は通路を進んでいく。
「これが今回の水場か。あー、確かに水中に通路みたいなものが見えるし、潜れば利用出来そうではあるな」
『ブン。上り下りのための段差もありますね。ただ、さっき言った通り注意はしてください』
「ああ、こうして水が少しずつとは言え追加されているのに水量が変わらないって事は、どこかからか水が出て行っているって事でもあるしな。であれば、その水の出ていく場所は危険な場所になっているはずだ」
と、ここで件の水場が出てきた。
通路の横に、天井から水が滴り落ち、泉のようになっている場所があったのだ。
水はよく澄んでいて、水底の岩まではっきりと見えている。
そして、泉の中には何処かに繋がるゴーレムが通れそうなサイズの通路があり、泉の中に降りるのに良さそうな段差もあった。
「と言うか、通路が分岐しているのは何気に初めて見たな」
『ブーン。そう言えばそうですね。これまでトビィが探索してきた中ではなかったかもしれません』
通路の分岐は厄介な要素になりえるだろう。
通路まで魔物を引き込む際、スコ82の魔物の知性であれば、別の通路を移動して挟撃を仕掛けてくるぐらいは普通にあり得るだろうし、回り込む際にこうした知らなければ存在していると知覚できないものを利用する事もあり得るはずだ。
逆にこちらが通路の分岐を生かすのは……マルチぐらいでしか出来なさそうか。
とりあえず覚えてはおこう。
「さて、そろそろ部屋にたどり着くころだな」
俺は泉の中の通路を無視して、陸の通路を進んでいく。
そして、通路が開けて部屋になるのが見えたところで、陰になるところに身を潜め、部屋の中を窺う。
『ブン。魔物が居ますね』
「だな」
「「「……」」」
部屋の中には魔物が居る。
まず、ブルーホーネットが3体。
独特の羽音を立てながら、部屋の中を飛び回っているのが見えた。
見た感じ、属性を持っているようには見えない。
たぶん、洞窟と言う環境は属性無しの環境なのだろう。
「「「ギョギョギョ……」」」
「魚……」
『ブルーサハギンですね。トビィ』
そして魚人間とでも言うべき魔物……ブルーサハギンが3体。
3体に共通している特徴としては、魚の頭、ヒレや鱗の付いた手足、ウェットスーツのような衣服を身に着けている点だろうか。
武器は、銛持ちが1体、先端から銛が生えている筒……恐らくは水中銃の一種持ちが1体、手の先の爪が武器として鋭く尖っているのが1体、色からして全員青銅製の武器のようだ。
「さて挑むか」
『ブン。ただ気を付けてください。トビィのゴーレムはフロア5.5で強化されました。ですが、防御面はほぼそのままと言ってもいいぐらいです』
「分かってるさ。要するに……攻撃を受けなければいいだけだ!」
敵の編成を確認し終えたところで、俺は火炎瓶をサハギンたちの群れに向かって投げ込みながら、部屋の中へと飛び込んだ。
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