51:頭部損傷の影響
本日は三話更新になります。
こちらは三話目になります。
「いやぁ、本当にギリギリだった」
『ブン。本当にギリギリでしたね。トビィ』
俺は首をしきりに振ると共に、右手を坑道の壁に付けながら歩くことによって、欠けている視界を補うようにしつつ、通路を移動していく。
『ビイィ。分かっているとは思いますが、頭部は損壊しました。現地ラボでなければ直せません』
「だろうな」
さて、改めて今の俺の状態を確認しておこう。
場所が頭なので見えないが、手で触れた感じとして、今の俺の頭部は右目辺りを中心に顔面の四割くらいが吹き飛んでいる状況であるらしい。
生身の人間なら考えるまでもなく即死。
ゴーレムの体だからこそ生き残っている状態だ。
「しかし、思っている以上に視界制限も聴覚異常もきついな」
『ゴーレムの頭部はセンサーの塊と言っても過言ではありませんからね。それが攻撃によって唐突に失われたのですから、きついと感じるのは当然だと思います』
で、吹き飛んでいる場所が吹き飛んでいる場所であるためだろう。
視覚は右半分が常に黒で塗りつぶされて見えないと共に、立体視が出来なくなっている。
聴覚は右側からの音が聞き取りづらくなると共に、音の出所を正確に認識できなくなっている。
嗅覚は……まあ、ある意味で生身に戻っただけか。
なお、断面に手を当てると、本来入り込むはずのない頭蓋骨の内側にまで手が入り込んでいるような感覚がして、中々に気味が悪い。
しかし、顔の四割でこれという事は……。
「ちなみにティガ。頭部が全損したらどうなる?」
『ブーン。代替の知覚手段や修復手段などがない場合、視覚聴覚嗅覚は完全に失われますね。ほぼ詰みと言っていいかと』
「確かにそれは詰みと言っていいなぁ。触覚しか使えなくなるわけだし」
どうやら、頭部が完全に破壊されるのは、事実上の死亡判定になるようだ。
俺のスペックでは視覚が失われた時点でほぼ動けなくなるが、聴覚までなくなったら、もはやがむしゃらに暴れまわる事しか出来ないだろう。
「やっぱりシールドゲージは欲しいし、頭部と胴体はバイタルパートとして守りを厚くしていく必要があるか」
『ブン。そうなりますね』
では対抗策は?
まずはシールドゲージと素材の変更だろう。
前者があればなかった事に出来るし、素材の変更が出来れば……それこそ真鍮や鉄で作れれば、今回のように一発で果物のようにはじけ飛ぶ、なんて事態は防げたに違いない。
後は次善の策として、替えのパーツを一つくらい持ち歩いておくのもありか。
壊れた頭部とインベントリに入れた頭部を入れ替えるのにかかる時間と、交換している間に壊した何者かの存在を考えたら、ソロでは現実的とは言い難い方法だが。
『ちなみにトビィ。両腕と脚部は破壊されても使えなくなるだけですが、胴体の場合は別のトラブルがありますよ』
「と言うと?」
『修復が出来ないレベルで胴体が破壊されると、それだけインベントリの容量が減るのです。そこでインベントリがマテリアルなどで満杯ですと、溢れる事になります』
「……。地味に厄介な仕様だな。逆転のための特殊弾を落としたら死ぬし、落としたマテリアルの量によっては押し潰されるし、パーツを落としても不都合がある。まあ、胴体が破壊されたら、大抵は核も破壊されているだろうけど」
『ブン。そうですね』
なお、胴体にも破壊された時の特殊な仕様があったらしい。
まあ、胴体には核があるわけだし、その胴体が修復できないレベルで破壊されたとなったら、ほぼ間違いなくその時点で死んでいるのだが。
胴体が破壊されたのに核が残っているとしたら……腰や腹部の辺りが吹き飛んだ場合だろうか。
そうなると、下半身が丸ごと失われている事になるわけだし……うん、やっぱり死ぬ未来しか見えないな。
一矢報いることが難しくなるだけの仕様と思っておこう。
「と、部屋に着いたな」
そうこうしている内に次の部屋に到着。
魔物の影はなし。
マテリアルタワーにレコードボックスも無し。
家電を模した電撃罠も無し。
あったのは……エレベーターだ。
「ふう。これで現地ラボに行けるな」
『ブン。そうですね』
どうやら俺は無事にフロア5を突破できたようだ。
と、思いたいところだが、一応、周囲を警戒しながら、部屋の中に入り、エレベーターに近づいていく。
「よし。フラグじゃなかったな」
『流石に警戒していますね。トビィ』
「そりゃあな。流石に顔面半分の状態で魔物と戦うのは無理だ」
何もなかった。
俺は無事にエレベーターにたどり着き、エレベーターは降下を始める。
「はああぁぁぁっ……」
『お疲れ様です。トビィ』
「いや、お疲れ様には少し早いだろ。後1フロア残ってる」
『ブン。そうではありますね』
で、現地ラボ、フロア5.5に到達した。
さてまずは予測機能を確認しておく。
予測では……フロア6の構成は不明で、魔物についてはホーネットの出現は予測されているが、それ以外は不明。
ただ、フロア6は第二坑道・ケンカラシの最深部であるから、キーパーは確実に存在している事だろう。
「さて、設計図の確認をしたら、改修をしていくか。次のフロアではマトモに戦えるようにな」
『ブブ。頭部を修復してからの方がいいと思いますが……』
「マテリアルが勿体ないから却下だ」
俺はフロア4と5で手に入れた設計図の確認を始めた。