5:マテリアルタワー
本日は四話更新となります。
こちらは一話目です。
『さて、これがマテリアルタワーでいいんだよな』
『ブン。その通りです。これがマテリアルタワー。攻撃することによって、塔の構成物質に応じた物質を入手可能です』
俺はまず岩で出来た塔へと近づいていく。
そして本来ならば音声で指示されるとおりに、右手をかざしてみる。
『そしてこれが攻撃の制限か』
『ブブ。正確には接触の制限です。トビィに攻撃の意図がなくても触れただけでカウントは行われます』
『おっと、そいつは気を付けないといけないな』
かざした右手の上に、3、10:00、と言う二つの数字が出てくる。
これがティガの言う接触の制限。
どうやら、この岩のマテリアルタワーは3回しか触れられず、一度触れたならその後は10秒間しか触れられないらしい。
そして回数と時間が無くなれば、マテリアルタワーは消滅する。
まあ要するにだ。
『じゃ、10秒以内に3回の強力な攻撃を叩き込むとするか』
マテリアルタワーとは賞金付きのダメージレースのようなもの。
より大ダメージを与えられるように殴れれば、それでいいのだ。
『すぅ……』
俺は先ほど坑道の壁を殴りつけた時と同じようにゴーレムを動かす。
『はっ!』
そしてまずは一撃。
全身各部の関節を適切に回すことで右手を岩のマテリアルタワーにぶち込む。
すると、マテリアルタワーから弾け飛ぶように岩の破片が飛んでくるが、これはただの演出であるため、俺に被害はない。
また、同時にマテリアルタワーのカウントがスタート。
3が2になり、10:00の表示から勢いよく数字が減っていく。
『せいっ!』
なので素早く二撃目。
右手をぶち込んだ反作用を生かすように関節を動かし、左手をフックのように叩き込む。
こちらでもまた、大量の岩の破片が減り、カウントの2が1になった。
『おらぁ!』
最後となる三撃目。
二撃目と同じように反作用を生かしつつ、全身の力を右手へと集中させ、掌底のように叩き込む。
この攻撃でもやはり大量の岩の破片が舞った。
で、カウントが1から0となり……残ったマテリアルタワーは空気に溶けるかのように消え去った。
『お見事です、トビィ。初めて……それも初期状態でこの数は素晴らしい成果です』
『そいつはどうも』
マテリアルタワーは消えたが、俺の周囲には大量の岩の破片が転がっている。
なので俺は手近な破片に近寄ると、右手をかざす。
すると、かざした手の上に円形のゲージが表示され、ゲージが満タンになると同時に岩の破片が消えて、こんな表示が出てきた。
≪鉱石系マテリアル:岩を1個回収しました≫
『これで入手完了か?』
『ブン。その通りです』
どうやら問題なく手に入ったらしい。
読んだチュートリアル通りなら、インベントリに収納されたはずだ。
『では、残りの物質も回収しましょう』
『……。自動回収系統の機能は早々に回収したいところだな。こりゃあ』
≪鉱石系マテリアル:岩を22個回収しました≫
ただ、俺の成果が良すぎたためか、一つ一つ拾い上げるのは手間だった。
今後今よりも強力な武装が手に入り、マテリアルタワーからより多くの物質を入手できるようになると考えたら、回収の効率化をするための何かは必要そうだ。
覚えておこう。
『で、これが修復か』
『ブン。入手したのが岩のマテリアルであり、トビィの操るゴーレムも岩製であるので、時間はかかりますが、自動で修復されます』
そうして回収している間に、坑道の壁を殴りつけた際に異常が生じた右手が直っていた。
本来は戦闘のチュートリアル後に説明されるような事柄であるが、これがゴーレムの修復機能であるらしい。
となれば、今後どのようなゴーレムにするにしても、体を作っているのと同じ物質をある程度はインベントリにストックしておいた方がよいだろう。
ただ、インベントリにストックしておける量は……チュートリアル文章によれば、胴体の性能次第だったか。
まあ、その辺を詳しくやるのはまた今度だな。
『さて、こっちが緋炭石って奴か?』
『ブン。トビィが優先的に回収するべき物質です。ゴーレムの燃料になるだけでなく、坑道の外での価値も高いです』
『ほーん』
俺は緋色の結晶体で出来た塔に近づき、手をかざす。
表示されたカウントについては岩のマテリアルタワーと同じ。
これが緋炭石のマテリアルタワーであるらしい。
じゃ、殴るか。
『ふんっ! せいっ! はあっ!!』
という訳で三度殴る。
感触としては、岩よりも柔らかく、脆く、砕けやすい感じだ。
そのためか、岩のマテリアルタワーの時よりも多くの破片が飛び散る。
『では、回収をお願いします。トビィ』
『分かった。そう言えば、他の連中は一つのマテリアルタワーでどれぐらい掘れるんだ?』
『ブブ。個人情報なので、ティガの口からは言えません』
『そうか。なら仕方がないな』
で、飛び散った破片を地道に回収していく。
やはり効率的に回収を行えるような何かは準備するためだろう。
こんなストレスの溜まる行動を一々やっていたら、何かを殴りたくなって仕方がない。
≪特定物質:緋炭石を30個回収しました≫
『これで全部だな』
『お疲れ様です、トビィ。なお、ゴーレムの燃料として緋炭石を使う場合、インベントリ内から自動で使われていきます』
『分かった』
なお、ゴーレムの燃料ゲージとやらは、よほど危うくならない限りは基本的に表示されず、表示したい場合には意識する必要があるらしい。
俺は念のためにインベントリと燃料ゲージを確認したが、インベントリには30個の緋炭石があり、燃料ゲージは僅かに減っている程度だった。
『ん? インベントリからアイテムの説明を見たりは出来ないのか』
『ブン。坑道内は基本的に危険地帯です。アイテムの説明を見ると言った、大きな隙を生じるであろう行動はラボでしか行えないようになっています』
『ふうん。なるほどな』
アイテムの説明周りの仕様については……俺はどうでもいいが、某友人はうるさく騒いでいそうだ。
まあ、その時は近寄らないだけだが。
『さて次の部屋に向かうか』
『ブン。向かいましょう』
俺は部屋の中にあった、入ってきたときとは違う通路へと入っていく。
さて、ここがアイテム回収のチュートリアルとなれば、次のチュートリアルの内容についてはほぼ決まっているようなものだろう。
「グルルル……」
『犬人間、コボルトか』
そんな俺の予想が正しいことを示すように、次の部屋には全身が白い毛並みに覆われ、頭が犬のそれになっている人間……コボルトが居た。
01/27誤字訂正