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49:棘だらけの二つ道

本日は三話更新になります。

こちらは一話目です。

「ブゴ、ブゴブゴ」

「ブヒッ、ブモッ」

「いやうん、本当に無理だなこりゃあ」

『ブン。挑まないのが賢明でしょう』

 俺はフロア5を探索している。

 マテリアルタワーは銅、岩、緋炭石と見つけたが、エレベーターはまだ見つかっていない。

 で、次の部屋には魔物が居たので、様子を窺ってみたのだが……。


「「ブモブモ」」

「「ヂュウヂュウ」」

「「ブゴーゴ」」

 次の部屋の中には、ヴァイオレットボア1、ブルーボア1、菫色の毛に覆われた巨大鼠……ヴァイオレットラット2、ブルーオーク2が居た。

 しかもブルーオークの手には、片方は真鍮製と思しき大型の猟銃を持っていて、もう片方は青銅製の巨大な盾と真鍮製の斧を握っている。

 おまけにブルーオークの装備品は電撃を纏っている。

 うん、無理。

 挑んだら、どう転んでも殺される。

 部屋中だと普通に囲まれて叩かれて死ぬし、通路に逃げてもボアに追い立てられてから撃ち殺される未来しか見えない。


「ティガ。今更だが、魔物はブルーから坑道に応じた属性を持つ、と言う事でいいのか?」

『ブン。基本的にはそうです。ただ、パイコーンが炎上するように、種族として属性を持っている場合もありますので、気を付けてください』

「なるほど。元から火炎属性攻撃が出来るなら、今ここだと火炎と電撃の二重属性攻撃になったりするのか。厄介な話だ」

 という訳で、気づかれない内に離脱。

 別ルートから他の部屋に向かう事にした。


「こっちも無理だな」

『ですねぇ』

「「「ブブブ……」」」

「「ブゴブゴ」」

 が、そちらの部屋はさらに酷かった。

 敵の総数は5で、デイムビー3のオーク2だ。

 その内、二体のヴァイオレットデイムビーは槍持ちだからいいが、ブルーデイムビーがやけに銃身が長い、電撃を纏ったライフル持ち、恐らくは狙撃銃使いだ。

 で、オークはオークでヴァイオレットオークは銅製の盾と曲刀だからいいが、ブルーオークは電撃を纏った真鍮製の猟銃持ちである。

 部屋に入った瞬間に惨殺される未来しか見えねぇ。


「次だ次。こんなところに居られるか、俺は安全なルートで奥を目指すぞ」

『トビィ。フラグっぽいですよ。そういうセリフは』

「敢えてフラグを立てることで逆に折るという高等テクニックだ。大丈夫だ問題ない」

 という訳で更に別ルート。

 こちらにはレコードボックスがあり……そして、魔物が六体居る方の部屋と通路が繋がっていた。

 そして、この時点で俺は気づく。


「フラグだったか……」

『ブブ。回収が早いですよ。トビィ……』

 エレベーターがある部屋は未探索の部屋である。

 未探索の部屋は魔物たちが居た二つの部屋と、二つの部屋のどちらかから行ける部屋だけである。

 つまり、何とかして、魔物が居る部屋を抜ける必要が出て来てしまった。

 なお、レコードボックスについては、いいものがなかったので、適当に特殊弾『有毒弾』を回収した。


「さて、どうするか……」

 魔物を倒して突破することは不可能だ。

 断言していい。

 と言うのも、フロア5突入直後の戦闘は相手に遠距離攻撃持ちが居なかったので対処できたが、今回はどちらの部屋にも遠距離攻撃持ちが居る。

 となれば、近接とやり合っている間に撃ち抜かれてお終いだろう。

 相手の面子的に通路に引き込むのも厳しい。

 と言うか、通路で戦う方が危険な相手ばかりだ。

 火炎瓶で遠くからチクチクと言うのも、通用するのは何度かだけで、その内に火炎瓶を投げ込む瞬間に撃ち抜かれることになるだろう。

 うーん、やはり特殊弾『睡眠』とハードバトンの組み合わせはやはり作るべきだったか。

 特殊弾の使い方次第ではあるが、ハードバトンを投げてもいいなら、ハードバトンを投げて睡眠をばらまくという手段もあったのかもしれない。


「ま、無いものねだりはしてもしょうがないとしてだ」

 まあ、出来ないものは考えても仕方がない。

 今の手札でどうにかする方法を考えるしかないな。


「ティガ。仕様の確認をしたい」

『ブン。分かりました。答えられる範囲で答えます』

 で、今の手札で取れる手段となると……隠密だろう。


「魔物がこちらを認識する手段はどうなっている?」

『ブーン。調査中であるため詳細は不明です。ですが、主に視覚、聴覚、嗅覚、触覚による外界認識を行っているようです。また、パイコーンのように目を持たない魔物であっても視覚を有しているのは確認されています。それと、各感覚の下限は人間と同程度との調査報告も未確定ですがあります』

「……」

 隠密をするならば、相手がどうやってこちらを認識しているのかを知らなければ話にならない。

 俺はそう判断してティガに聞いたが、結構な情報が出てきたな。


「触覚は無視していいな。触られるほど近くに居るならもう気付かれているか、怪しまれてる」

『ブブ。床などの振動を感知するのは触覚ですよ。トビィ。まあ、それで気づく魔物は極一部でしょうし、今回は大丈夫でしょうけど』

 まず触覚。

 今回は無視していい。

 ボア、ラット、オーク、デイムビー、どれもこちらが歩くことで生じる振動までも感知するような魔物ではないはずだ。


「嗅覚は……どうなんだ?」

『ブーン。生物系マテリアルで体を構築している場合、獣のように嗅覚が鋭い魔物は気づくと思います』

 嗅覚も今回はセーフ。

 今の俺の全身は鉱物で出来ているからな。


「聴覚。シンプルに足音、物音を立てるな。だな」

『ブン。その通りです』

 聴覚はシンプルに気を付ければいい。

 隠密をするなら、足音、物音を立てるなは当然だからな。

 これで蝙蝠や兎の魔物とか混ざっていたら話はまた別だったかもだが、今回は居ないしな。


「となるとやっぱりどうにかしてごまかさないといけないのは視覚か」

『ブン。そうなりますね』

 では視覚は?


「ティガ。前に言っていたな。魔物相手にカラーリングを変えることによるカモフラージュ効果は期待できない、と。どういう理屈でそんな事になっている?」

『ブン。分かりました。では答えましょう。長いので、文章で用意しました』

 魔物は人間並みの視力が全員に備わっている。

 魔物にはカラー変化によるカモフラージュが通用しない。

 だが、隠密は第一坑道・レンウハクがそうであったように、プレイスタイルの一つとして認められているし、場合によっては推奨される状況だってある。

 つまり、何かしらの方法で誤魔化すことが出来るはずだ。

 そして、ティガから文章が渡された。

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