48:ボア&デイムビー
「「ブゴオオォォ!!」」
二体のブルーボアが勢いよく突っ込んでくる。
その速さは対処可能な範疇であるが、大きな牙が纏う電撃、ランク上昇に伴う攻撃力の増強、シールドゲージの存在も併せて考えると、正面から受け止めることは今の俺では不可能だろう。
なお、二体の進路は俺が居る場所で交差するわけだが、絶妙にタイミングがずらされているため、二体のボアが衝突して同士討ちする事はないだろう。
「「ブブーン!!」」
二体のヴァイオレットデイムビーも槍を構えた状態で、空中を駆けて、こちらへと向かってきている。
速さは明らかにボア以下。
だが、ゲーム的に分かり易いように敢えて緑青が浮かんでいるように見える青銅製の槍で突き刺された際の被害は、ボアによる攻撃の被害と大して変わらないだろう。
そして、こちらの二体が俺へと攻撃を仕掛けてくるのは、ボアが攻撃を終えた直後だろう。
「此処だ」
「ブ……」
「モ……」
幸いにして遠距離攻撃持ちは居ない。
しかし、遠距離攻撃持ちが居ないからこそ認識加速は発動しないし、四体の動きの速さと想定される戦術から、代わる代わる攻めかかられることは確定。
であれば、回避主体で立ち回り、持久戦に近い形で戦うしかない。
俺はそこまで考えると、モロトフラックから火炎瓶を取り出しつつ、二体ボアの攻撃を避けるように前方へと転がる。
「そいっと……」
「「ブモオォ!?」」
そして、立ち上がりつつ火炎瓶を投擲。
直撃したボアを焼き、続くもう一体のボアも火の海に突っ込んだことで多少の手傷を負うようにする。
「後転!」
「「ブン!」」
が、その結果を見届けるより早く俺は後転。
直前まで俺が居た場所に青銅の槍が甲高い音と共に突き刺さる。
これで敵の攻撃は一通り終了。
きちんとした反撃を仕掛けるならば、このタイミングであると俺は右拳を握りしめて……。
「「ブモアアッ!」」
「「ブブブ……」」
「おいおいっ!」
そのタイミングで二体のボアが体に着いた炎を床を転がる事で鎮火した上で、電撃罠を粉砕しながらこちらに迫ってきているのを目視。
牙に電撃属性を纏っているからか、どうやらボアたちには電撃属性の耐性があるらしく、電撃罠がまるで効果を示していない。
また、デイムビーたちも既に青銅の槍をほぼ引き抜き終わっていて、もう数秒もしない内に独特の羽音を立てながら空中で突撃の構えを取る事だろう。
つまり、ここで攻撃を仕掛けに行けば、一回の攻撃と引き換えに最低でも三回の反撃を食らう事になる。
うん、死ぬ。
「つおっ!?」
「「ブモアッ!」」
「「ブン!」」
という訳で、先ほどと違って火炎瓶を投げる暇もないままに連続で転がって回避。
肌に電気のピリッとした感覚が走る。
青銅の槍が薄皮一枚以下の厚みを削る。
そして、そこまでギリギリで回避できた今、ようやくチャンスが来た。
「此処だオラァ!」
「ブギュ!?」
立ち上がりつつ、遠心力も乗せた右拳のアームハンマーをデイムビーの片方、その腕へと叩きこむ。
この攻撃によってデイムビーは槍を持ったまま吹き飛び、シールドゲージが二割ほど削れた。
だがそれで良し。
削れるならば勝てるのだ。
本音で言えば、槍を手から落としておきたいところだったが、贅沢は言わないでおく。
「「ブモアアッ!!」」
「「ブーン!!」」
「やったらぁ!」
『ブン。頑張ってください! トビィ!』
再びの敵のターン。
ボアの突進、デイムビーの槍を地面を素早く転がる事で回避し、回避直後に火炎瓶か拳による反撃を叩き込んでいく。
もちろん敵も同じように攻撃を仕掛けてくるわけじゃない。
だから、俺の回避進路上を狙ってデイムビーが槍を突き出そうとするならば、ゴーレムの足首を素早く回転させることでギリギリ回避。
ボアが突進タイミングをずらしてくるならば、こちらもそれに合わせて動く。
デイムビーが槍の突き出しではなく、薙ぎ払いで仕掛けてくるのが見えたならば、多少の被害は受け入れ、相手の懐に飛び込んで腕を打ち、被害を抑えるのとダメージを与えるのを両立する。
ボアが二体並んで避けられないように突っ込んでくるなら、火炎瓶を相手の進路上に投げ込むことで事前に乱す。
修復が出来ないような致命傷だけは避け、軽微な被害を岩のマテリアルの消費によって回復しつつ、相手の行動に合わせていく。
「ブ……」
「いい加減に……」
そうして削り続ける事暫く。
ようやくデイムビーの一体のシールドゲージが削れ切った。
ちょうど、もう一体のデイムビーは攻撃を終えた直後で、二体のボアもこちらに戻ってくるまでまだ数秒かかるタイミングだ。
俺は此処が仕掛けどころと見て、追撃の全力右ストレートをデイムビーに撃ち込もうと、前転による接近を試みようとしていた。
デイムビーはシールドが割られた影響で吹き飛ばされつつあったのもあってか、尻尾のように人間のお尻部分から生えた蜂の針の先を俺へと向けている体勢だった。
「ブロトモ!」
「っ!?」
俺は反射的に真正面ではなく斜め前に向かって転がっていた。
本来俺が転がっていたであろう場所を、1メートル近い長さと、その長さに見合う太さを持った、槍のような蜂の針が貫いていた。
しかも、針の先から放たれたであろう液体によって、かなりの範囲の床と棚が嫌な煙と音を出しながら溶け始めていた。
「あっぶねえな!!」
「ブギョ!?」
蜂人間なら使えて当然とも言える武器。
毒針の一撃だったらしい。
だが、床と棚を溶かす辺り、毒液は毒液でも強酸の毒液であるし、液体の広がり方もショットガンのような広がり方をしているし、針本体も杭打機のような勢いと太さ。
直撃していたら、シールドがあっても問答無用の一撃だったのかもしれない。
と、思考しつつ、明らかに動きが鈍っているデイムビーの頭部へと攻撃を仕掛け、首の骨を叩き折り、無事撃破。
どうやらノーリスクで行えるような攻撃ではなかったらしい。
「「ブゴオッ!!」」
「分かってるよ! まだ終わってないってなぁ!」
ここでボアが突っ込んできたので回避。
「ブウン!」
「だがなぁ……」
さらにデイムビーの一撃もギリギリまで引き付け、関節を回転させることによって紙一重で回避。
「四対一で仕留められなかったのに、三対一で仕留められると思うなよ!!」
「ブギョ!?」
そして、反撃の一撃をデイムビーに叩き込んで、シールドゲージを削る。
同時に現在の体の損傷状況、燃料ゲージ、岩のマテリアルと緋炭石の残量を確認。
いずれも問題ないと分かったので、相手に更なる隠し玉がない限り、これで後は俺の集中力さえ続けば問題ない。
「ブモオオォォ……」
「はぁはぁ……体力ありすぎだろ。こいつら……」
『ブン。ボアは底なしと称されるスタミナに加え、シールド抜きにしても頑丈と言える防御力や体力がありますから……』
「ああなるほど……」
なお、その後割と直ぐにもう一体のデイムビーは倒せたのだが、残る二体のブルーボアの討伐には、こちらの攻撃手段の少なさも相まって、十分以上かかる激闘となった。
岩のマテリアルは目に見えて、緋炭石も幾らか消費する事になった。
マトモに攻撃を受けても耐えられるのなら、もっと効率よく戦えたかもしれないが……どうやらブルーのランクの魔物はヴァイオレットとは比べ物にならないぐらいには危険であるらしく、電撃を纏った牙が掠っただけで、掠った部分の岩が溶けるように砕け散っていたからな。
「うん。逃げよう。次の現地ラボでゴーレムの改修をしないと、殴るどころじゃねえわ。これ」
『ブーン。そうかもしれませんね』
≪設計図:デイムビーヘッドを回収しました≫
≪設計図:デイムビーボディを回収しました≫
≪設計図:特殊弾『突撃』を回収しました≫
≪生物系マテリアル:肉・電撃を1個回収しました≫
一撃マトモに受けることが出来ない今のゴーレムのままではフロア5では戦えない。
俺はこの一戦でそう判断した。