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45:ヴァイオレットケットシー

「さて次の部屋だが……」

 俺はわずかに上り坂になっている道を移動していき、次の部屋を見つけたところで坂に身を隠すようにしつつ、部屋の中を確認した。


「ニャニャニャ」

「ニャー」

「ニャオニャオ」

「ニャニャン」

 部屋の中には棚と家電を模した電撃罠が幾つかあり、その陰から中々出てこなかったので、確認には時間を要した。

 が、時間をかけたおかげで、部屋の中に四体の猫人間と言うべき魔物が居るのが見えた。


『ブン。ヴァイオレットケットシーですね』

「ケットシーは猫妖精じゃなくて猫人間なのか。まあ、俺としては都合がいいか」

 ティガ曰く、相手はヴァイオレットケットシーであるらしい。

 見た目については……共通する範囲だと長靴を履き、帽子を被った、二足歩行する菫色の毛の猫。

 身長は1メートルと少しで、ゴブリンとコボルトの中間くらい。

 ニャーニャー言いながら、床から棚の上まで簡単に跳んでいる辺り、種族全体として身軽のようだ。


「武器は……おっと、アレが出てくるのか」

『厄介ですか?』

「厄介だな。アレ……リボルバーは厄介どまりだが」

 四体のヴァイオレットケットシーはそれぞれ異なる武器を手に持っている。

 一体目はよくしなりそうな銅製のレイピア。

 二体目はよく磨かれた銅製の短剣。

 三体目は銅製のリボルバー……見た目だけか中身もかは不明だが、恐らくは六発まで装填できるオーソドックスな見た目の奴だ。

 四体目は遠めだとよく分からないが、ロープ? ワイヤー? いや、白っぽく見えるから包帯かもしれないな。

 とりあえず紐状あるいは帯状の物体を持っている。

 さて、ここからどう仕掛けていくかだが……。

 まあ、相手の身のこなし、体格、それと見るからに急所狙いっぽい感じを考えると、通路には引き込まずに部屋の中で上手く立ち回るしかないか。


「行くぞっ!」

『ブン』

「「「ニャッ!?」」」

 では戦闘開始。

 俺は部屋の中に飛び込むと同時に、もはやお馴染みの動きとして火炎瓶を四体のケットシーのど真ん中へと投げ込む。


「「「フシャアアアッ!」」」

「当然避けられるわけだが……」

 四体のケットシーは素早く散会して、火炎瓶を避ける。

 レイピアはこちらに真正面から向かってくる。

 短剣とリボルバーは左右に逃げたが、恐らくは物陰を伝う形でこちらを狙える位置に移動してくるだろう。

 残す正体不明の武器持ちは……逃げる直前に持っているものが見え、包帯を持っている事が判明。

 こちらから距離を取るように、おまけにこちらの姿を確認する気もなさそうな挙動で逃げている。

 なるほど、なるほど。


「ニャアッ!」

「お前……」

 レイピア持ちによる腹を狙った突きを最小限の動作で回避しつつ、相手をわき腹を殴りつけて、吹き飛ばす。

 だが追撃はしない。

 もっと優先するべき相手がいる。


「回復役だな」

「ニャアッ!」

「「ニャゴッ!?」」

 レイピア持ちと短剣持ちが空中で衝突している。

 いや、短剣持ちがレイピア持ちのフォローに向かったとみるべきか。

 同時にリボルバー持ちが俺の胸に向かって発砲。

 コースは脇から胸の中心を通りそうなものだが……これはレイピア持ちを殴った勢いのままに体を回転させ続け、銅のブレストプレートとリボルバーの銅の弾丸をカチ合わせることによって防御。

 ほぼ無傷でやり過ごす。


「せいっ!」

「ニャアッ!?」

 で、その間に包帯持ちの進路に火炎瓶を投げて退路を塞ぎつつ接近し……相手の体を浮かせるようにまずは一発。


「はあっ!」

「ニャゴオッ!」

 続けて空中に居る包帯持ちにナックルダスターによる一撃を当て、吹き飛ばし、電撃罠を割らせて感電させた上に火炎瓶も投下。

 一気にシールドを削り切り、そのまま始末をつける。

 やはり身軽さが売りなだけあって、シールド込みでも耐久力は低めなようだ。

 なお、この間にもリボルバー持ちはこちらを打ち続けていたが、それは腰と胸を上手く回転させ続ける事によって、常にブレストプレートをリボルバー持ちに向けることで核への攻撃を防ぎつつ、同時に手足への攻撃は受けても被害が軽微であるので無視している。


「さっきからバンバンと面倒くせえんだよ!」

「ニャゴッ!?」

 が、それも包帯持ちが片付くまでの事。

 俺はリボルバー持ちが発砲する瞬間を目視することで認識加速を発動させ、ナックルダスターを弾に正面から合わせることで弾こうとし……弾いた弾丸はリボルバー持ちに返っていった。

 すると予想外の反撃だったためか、シールドは僅かに削られただけだが、リボルバー持ちは慌てて姿を隠す。


「さて……いつの間にかレイピア持ちと短剣持ちも姿をくらませてるが……逃げたって事はないよな」

『ブン。あり得ません。特殊な挙動をする魔物が存在する事は否定しませんが、ほぼ全ての魔物は一度プレイヤーが憑依するゴーレムを見つけたならば、死ぬまで襲い掛かってきます。ケットシーもそのはずです』

 レイピア持ちと短剣持ちは空中衝突した時点から既に姿をくらませている。

 しかし、死んだからではなく、こちらの隙を窺うために身を隠しているのだろう。

 だが、猫らしく足音はしない。

 呼吸音の類など分かるはずもない。

 とりあえず首から上だけを素早く一回転させてみたが、やはり姿は見えない。


「焙りだすか」

 仕方がないので俺はモロトフラックから複数の火炎瓶を取り出して両腕で抱え持つと、腰から上を回転させつつ手を離すことで周囲へと火炎瓶をばらまく。


「「「ニャアアアッ!?」」」

「そこか」

 結果。

 周囲一帯が炎上し、火炎瓶そのものあるいは炎の熱によって電撃罠が作動して、俺の周囲には広域のダメージゾーンが形成された。

 こうなればどれほどの身のこなしがあっても避け切るとはならず、慌ててケットシーたちは潜伏していた場所から飛び出てくる。

 その際に一斉に飛び出し、なおかつこちらへの攻撃の意思をきちんと持って出て来ている辺りは流石は魔物と言うところだが……。


「悪いが不意打ちでないならどうとでもなる」

「「「ニャゴオオォォッ!?」」」

 レイピア持ちと短剣持ちは浮かせて、空中と言う身動きが取れない空間に押し退けた上でリボルバー持ちに向かって弾き飛ばす。

 するとリボルバー持ちは誤射を恐れてこちらを撃てなくなったので、そのまま接近。

 三体まとめてダメージゾーンに向かって殴り飛ばすという方法でもって、あっさり決着となった。


『流石はトビィ。どのパーツも修復可能な範囲で収まっています』

「おう。上手くいって何よりだ」

≪設計図:ヒールバンテージを回収しました≫

≪生物系マテリアル:皮を1個回収しました≫

≪設計図:リボルバーを回収しました≫

≪設計図:ケットシーテイルを回収しました≫

 報酬のアナウンスが流れる。

 と同時に、オークレッグに深い刺し傷と切れ込みが入っていることに俺は気づく。

 どうやらいつの間にか切られていたようだ。

 しかも、この傷の深さ……オークレッグでなければ、致命的な損害になっていたかもしれない。

 今の戦闘、俺が思っていた以上に薄氷の上の勝利だったのかもしれないな。

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