44:インベントリ
「一応確認するが、ビギナーボディのインベントリは48枠でいいんだよな」
『ブン。それで合っています』
俺は周囲の安全を確認すると、腰を下ろしてインベントリの中身と空き枠を確認する。
属性付きマテリアルの出現に伴うインベントリ圧迫の可能性について論じるのは、坑道で危険を伴うような行動をするだけの価値があると俺は思ったからだ。
「ふむ。俺が今までに回収したマテリアルは……生物系5種、鉱石系4種。おっと、緋炭石は別枠で、インベントリの枠外に入るようになっているのか」
『緋炭石は坑道に潜る理由そのものでありますし、枠が足りないからと捨てられては困りますから』
俺の手持ちのマテリアルは現在9種類。
対するインベントリの枠は48。
考えるまでもなく余裕も余裕。
ハンネからの情報によれば、インベントリの一枠には同一アイテムであればとりあえず4桁まで収納できることは確認できているそうなので、普通にプレイしている限りはマテリアル1種類につき1枠で済むのは確定としていいだろう。
という訳で、今後、鉄や青銅、金、銀と言った定番のマテリアルが出て来ても、属性のないマテリアルを収めているだけならば、枠の消費はせいぜい10前後であり、問題はないだろう。
「特殊弾、替えのパーツ、これも一種一枠だよな?」
『ブブ。特殊弾は一種一枠ですが、替えのパーツは全データが一致していても一つ一枠です』
「なるほどなるほど。つまり、ナックルダスターの設計図をコピーして複数所有していて、どちらも岩で作っても、インベントリに納めるなら二枠使う事になる、と」
『ブン。その通りです』
しかし、48の枠には特殊弾と替えのパーツ……戦闘中にその場では修理できないほどに破壊されてしまった時の備えも入れておく事になる。
今はまだ必要のない話であるが、それが必要になれば5から10ぐらいは優に使うに違いないはずだ。
これで先述のマテリアルと合わせて20前後、およそ半分だ。
「となれば、やっぱり属性付きマテリアルを無制限に集めたら溢れるな」
そう、半分にもなる。
パーツの特殊弾の対応の部分を見る限り、現時点でも……火炎、電撃、拒絶……後は魔力とかもあって、属性無しを表しているであろう物理と合わせて5属性。
定番の氷系統も合わせれば6属性は存在しているのが確定しているのに、既にインベントリは半分使ってしまっているのだ。
それはつまり、取捨選択をせずに無制限に集めていたら、どこかでインベントリからマテリアルが溢れる事になるという事だ。
「ふうん……」
ビギナーボディのインベントリ容量が多いか少ないかは分からない。
ただ、ビギナーボディより小柄だったり、細身だったりすれば、それだけ容量が少なくなりそうな気はしている。
そして、俺の戦術的には小柄や細身のボディを採用する可能性は十分にある。
それはつまり、インベントリの制限は今後厳しくなることはあっても、緩くなる事はまず望めないという事だ。
『楽しそうですね。トビィ』
「ん? 楽しそうにしてたか? ゴーレムの表情なんて目に見えるようなものじゃないと思うが」
『声音と動作からですね。それと雰囲気もです』
「ああなるほど。まあ、楽しいのは確かだな」
実に面白い話だ。
今はまだ考える必要はないが、インベントリの空き枠と言うリソースのやりくりを考える必要が生じてきたというのは、ゲームとしてとても面白い。
どのマテリアルを残すか、どの特殊弾を残すか、どのパーツを予備として持っておくか、そして、それらをどの属性で保有しておくか。
考えることは山ほど存在しているだろう。
「これは個人的な意見になるが、ローグライクゲームってのは、ランダムに変化する未来に対して、限られたリソースをどうやりくりするかを楽しむゲームであると俺は思っているんだ。で、その観点から言わせてもらうなら、インベントリの限られた枠の中にどのアイテムをどの程度積み込むかを考えるってのは、ローグライクの醍醐味の一つであるとも言える」
『ブンブン』
今はまだスコ82の情報が集まっていないから、正しい賭け方も何もないが、情報が集まってくれば、この先で何が起きるのか予測して、その予測の中のどれに対応してどれに対応しないかを賭けて、実際に予測の範囲内に来た時に何が起きて……どうなるのか。
そのように攻略されるようになっていく事だろう。
それは一種のギャンブルであるが、同時に己の知識と技術を総動員することで勝率を上げられる賭け事でもある。
上手くいけば自分の思い通りに事が進んだとして高笑いが止まず、外れたならばそこからどうやってリカバリーするのかに熱中する。
勝っても負けても愉快な……正しくゲームだ。
これが楽しくないはずがない。
「そして今、スコ82でも、その醍醐味が味わえると確定した。これで喜ばないようなら、誰かの頼みがあっても、俺はこのゲームを遊んでいないさ」
『ブン。なるほど。ちなみにトビィ、殴るのと比べたら?』
「ん? 殴る方が勿論楽しいが? 俺にとってそれは比較にならないだろ」
『ブン。デスヨネー』
俺は立ち上がると、周囲を確認。
脅威は存在していない、と。
「さて、そろそろ次の部屋に向かうぞ」
『ブン。分かりました』
俺は次の部屋に向かって移動を始めた。