42:家電量販店
「さて、基本構成が坑道でないの意味は……ええっ……」
フロア4に俺は移動した。
そして、視界に入ってきた光景に、思わず驚きの声を上げてしまった。
いや確かに、これならば坑道ではないだろう。
だが、坑道でないにしても、こんな光景が広がるのは流石に想定外だった。
なにせだ。
「いや、大型家電量販店とか、ホームセンターとか言われるような場所じゃないか、これ」
『ブン。確かにそう見えますね。ですが、これが異常な空間となった坑道なのです』
俺の前に広がったのは……タイルが張られて整った地面、凹凸のない壁、鉄骨むき出しで照明が下げられている天井、冷蔵庫やテレビと言った大型家電が乱雑に置かれている棚に台、他の部屋に繋がる道路のような通路だった。
つまり、簡単に述べるなら、俺が言ったとおりに大型家電量販店やホームセンターと称するのが正しい光景だった。
「異常にもほどがあるだろうが。俺はてっきり露天掘りの鉱山だとか、採石場だとか、そうでなくとも荒野や草原、洞窟に海岸、とにかく自然に近い光景だと思っていたんだが、ここまで人類の歴史に偏った空間が出て来るとは思わなかった」
『ブブ。珍しいのは確かですよ。これはトビィがフロア4にたどり着いたことで解禁された情報になりますが、普通ならトビィが今言ったような空間が出現することが多いです』
「どれどれ……あ、なるほどな」
ティガから情報が文章になって送られてくる。
それによれば、坑道は深く潜れば潜るほど異常な空間になっていく。
この異常な空間の候補としては、人類の歴史において鉱物並びに鉱物から生成された物体が存在していたあらゆる空間ならば、どこも理論上は選ばれるらしい。
が、それでも出やすい空間、出づらい空間と言うものがあって、俺が今居る、通称で大型商店と呼ばれる空間は珍しいものになるようだ。
しかし、鉱物があった場所なら理論上何処でもとなると……。
「これ、その内に海底、火山、空中、宇宙空間ぐらいはあり得ると見ておいた方がいいな。下手すると原子炉のすぐ近く、摂氏何千度の空間とかまであり得そうだ」
『ブン。流石はトビィですね。そこまで想像しますか』
「するだろ。この文章が正しいなら、世界中どこでも再現されると言っているようなものだからな」
文字通りの意味で、あらゆる環境が候補になる。
どこまでを鉱物として判定するか次第だが、金属イオンの類まで鉱物と捉えるのなら、生物体内を模したものや、足場のない水中を模した空間まで想定しておいても間違ってはいないはずだ。
こりゃあ坑道予測なんてものが存在するのも納得だ。
環境によっては、特定の物質は存在する事すら許されない可能性があるのだから。
『ちなみにトビィ。トビィの想像こそがゴーレムと言うものが運用されている最大の理由です。人間が生存不可能な環境では、魔物と戦うどころか、緋炭石を採掘する余裕もありませんから』
「だろうなぁ……」
で、ゴーレムが必要と言うのも分かる。
こう言っては何だが、今俺が居るような空間なら、別に生身でも探索不可能ではないのだ。
少々魔物との戦闘が厳しくなる程度でしかない。
だが、深海、無酸素領域、溶鉱炉、などなど、生身では生存不可能な環境を何時引くか分からないのが坑道探索と言うのなら……そりゃあ、ゴーレムを使うのは当然だろう。
後には退けない坑道で、前に即死エリアしか広がっていない状況では命が幾つあっても無駄にしかならないのだから。
「さて、雑談はこれぐらいにして探索を始めるか」
『ブン。そうですね』
それではそろそろ動き出そう。
俺はまず手近な家電……冷蔵庫のように見える物体へと近づいていく。
「ふうん。電撃トラップの類か。こいつは」
『ブン。よく分かりますね。トビィ』
で、右手を近づけてみたところ、右手で握る銅のナックルダスターに嫌な感触があった。
「まあ、何となくな。こう、ビリっと言う嫌な感じが拳を伝わって感じるんだよ」
『ブブ。そうですか……今のトビィの拳はゴーレムの拳であって、トビィ自身のものではないはずなんですけどね……』
「そうか? 俺が操っているんだから、俺の拳には変わりないだろう」
俺は嫌な感触が正しいのを確かめるべく、右手を冷蔵庫へとさらに近づけていく。
そして、接触するか否かと言うぐらいの距離になったところで、冷蔵庫と銅のナックルダスターの間で火花が走ると共に空気が弾けるような音がした。
静電気のそれを何倍も大きくしたような音だった。
「正解っと。こりゃあ殴ったらその時点で反応して被害を被りそうだし、遠くから火炎瓶を投げてみるか」
俺はこの結果から、冷蔵庫にしろテレビにしろ外見がその形をしているだけで非常に脆く、接触しただけで壊れて、周囲に被害を出すタイプの罠だと判断。
少し離れた場所にあったクーラーっぽいものに向けて火炎瓶を投げてみる。
結果は……。
「やっぱり近づかなくて正解だな」
『ブン。そうですね』
火炎瓶がクーラーに接触した瞬間、双方共に弾け飛び、周囲に炎と電光をまき散らした。
そして、何かしらの魔術的な力が働いているのだろう。
炎が油によって燃え続けるように、電光も光球のような形でその場に残り続けて周囲への放電が続いている。
で、10秒ほど経ったところで電光は止んだが、あの電光に巻き込まれればどうなっていたかは……ゴーレムの核が電気に強いのか弱いのかは分からないが、試さない方が無難だろう。
「さて、気を付けて探索を進めていくぞ」
『ブン。そうですね。気を付けていきましょう』
とりあえずこの部屋は空き部屋だったようなので、俺は道路のようになっている通路へと入っていった。
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