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39:ヴァイオレットシープ

「ブホ……ブギャアッ!?」

 俺が投げた火炎瓶に対して、ヴァイオレットオークは素早く反応。

 銅の硬鞭を一振りして撃ち落とそうとした。

 が、その一振りによって火炎瓶は割れ、自身の頭上に近い位置で割れたために内容物の大半はオークにかかり、身に着けているものが毛織の防具であることも手伝い、一気に上半身が燃え上がる。


「行くぞオラァ!」

「「「メエェーベエェェー」」」

「ブギイィィ!?」

 シープたちが飼い主であるオークを心配するように揃って鳴き声を上げ始める中、俺は部屋の中に突入。

 上半身が燃え上がり、地面に転がる事で消そうとしているオークへと、出来る限り急いで接近していく。


「うおらぁっ!」

「ブギョッ!?」

 シープたちに攻撃の意思は……ここまで来ても見られないか。

 だったらオークから仕留めてしまおう。

 俺はそう判断すると、ひざを折り曲げ、回転させ、他の関節も適切に動かすことによって、地面から掬い上げるようなアッパーを放ち、燃えている顔面を殴りつけ、その衝撃と勢いでもってオークを立たせる。


「一気に……」

「!?」

「「「メエェーベエェェー」」」

 立たせオークの足のつま先を踏みしめる。

 左フックをオークの脇腹に打ち込む。

 そのまま、コマが回転するように動いてオークの背後に移動する。


「仕留める!」

「ブジョッ!?」

 そして、ナックルダスターが直撃するように乗せられるだけの遠心力を乗せた一撃をオークのこめかみに叩きこんでヴァイオレットオークのシールドゲージを削り切る。


「トドメ!」

「ブヒ……ブギャアッ!?」

「「「メエェーベエェェー」」」

 で、先の一撃の回転そのままにもう一発叩き込んで、オークの頭蓋骨を粉砕。

 感触から脳が潰れたのは分かったので、確実に仕留めた。


「つ……」

 これで残すはシープたちだけ。

 俺はそう思ってシープの方を向こうとして……気付く。


「「「メエェーベエェェー」」」

「あ……これは……」

 シープたちの声は一定の音階を持っていた。

 それはオークを心配する声ではなかった。

 状態異常の一つ、睡眠をもたらす魔性の声だった。

 気が付けば手足に力を込めようとしても力が入らず、視界が黒く染まり、まるで眠りにつくかのように体が勝手に動き出している。


『魔術原理の状態異常かぁ……』

『ブン。その通りです。トビィ。名称は睡眠。シープの使うものですと、ダメージと判定されるレベルの衝撃を受けるか、一定時間経過しない限り動けなくなる危険な状態異常です』

『ダメージで起きるならまだマシな方か。これ、化学原理なら原因物質の排除が出来るまで何があっても起きられない奴だろ』

『ブン。よく分かっていますね。流石はトビィです』

 という訳で、睡眠の状態異常によって、俺は目覚めるまで動けなくなってしまった。

 確かに岩製ゴーレムは生物原理の毒は無効化できた。

 だが、現状の岩製ゴーレムに魔術に対抗する術はない。

 なので、こうして眠ってしまったのだろう。


『んー……即死しないのを願うしかないな。オークが生きていたら諦め案件だったろうけど』

『ブン。そうですね。こうなれば祈るしかないでしょう。ちなみに今のような状況なら、一通りの宗教シンボルなら出せますよ』

『お生憎様。俺は典型的かつ不可思議な無神教と言う名の多神教だから、宗教シンボルは必要としないんだ。敢えて言うなら運命、運、自分自身に祈る場面だな』

『ああ、この国特有の不思議な宗教観のアレですか。では確かに必要ないかもしれませんね』

 しかしこの状況……まあ、普通にヤバいな。

 仮にヴァイオレットオークが生きていたなら、寝起きの一発として核に銅の硬鞭が撃ち込まれて、即死していたかもしれない。

 そう考えると、このエンカウントは第二坑道・ケンカラシのフロア3としては別格で危険な、所謂デスエンカに近いものだったのかもなぁ。

 後でハンネの奴に教えてやろう。


「!?」

 と、ここで唐突に視界が開けた。

 見えたのはヴァイオレットシープが頭を跳ね上げるような動作をしている姿。

 どうやらオークが死んでいるため、自分で仕掛けに来たらしい。


「目覚めの一発にしては……軽いな。よしっ!」

「「メエェーベエェェー」」

「メエエェェ……」

 俺は素早く立ち上がると頭を回して周囲を確認。

 二体のパープルシープは俺から離れた場所で集まり、既に鳴き声を上げ始めている。

 ヴァイオレットシープは次の突撃をしようと、牛のように蹄で地面を蹴っている。

 こちらの被害は……胸の岩が僅かに欠けた程度。

 ヴァイオレットのランクの魔物から無防備な状態で攻撃を受けたにしては奇跡的なレベルで軽い。


「二度も眠らされてたまるかよ!」

「「ベエエェェッ!?」」

 被害が軽微であることを認識した上で俺は火炎瓶を投擲。

 二体のパープルシープを同時に燃やして動きを止める。


「メエエェェッ!」

「で、お前は……怖くねぇな! 純粋な支援役が攻撃役になれるわけねえんだからよ!」

 で、ヴァイオレットシープについては普通にボコった。

 突進を避け、後ろ足を持って転ばせ、殴った。

 毛に覆われた部分は多少殴りに対して強いようだが、そんなものではどうしようもならない状況にしたのであっさりだった。

 そして、ヴァイオレットシープを殴りつつ、部屋の中を駆け回るパープルシープに向かって追加の火炎瓶も適当に投げておいたので……。


「ベエェェ……」

「終わりっと」

≪設計図:ハードバトンを回収しました≫

≪生物系マテリアル:肉を1個回収しました≫

≪生物系マテリアル:皮を1個回収しました≫

≪設計図:特殊弾『睡眠』を回収しました≫

 無事に勝利した。

 いやしかし、速攻でオークを落とせたからよかったものの、そうでなかったらかなり拙い戦闘だったな。

 シープが純粋な支援役である代わりに攻撃能力がかなり控えめであった事にも助けられた。


「さて、次の部屋に行くぞ。ティガ」

『ブン。分かりました』

 なお、この後も戦闘をしたが、めぼしい設計図は手に入らず、苦戦の類も特にせず、俺はフロア3から移動することになった。

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