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34:異常な現実

現実回となります。

「ふぅ……存外集中力を使った感覚があるな……まあ、まだ慣れていないゲームならこんなものか」

 スコ82からログアウトした俺はゆっくり立ち上がると、体を軽く動かした後に水分補給にエネルギー補給を行う。

 良い動きをゲーム内でしたいのなら、リアルの体が健全な状態である方が良いのだから、こういうのは重要な事だ。


「さて、色々と確認していくか」

 そうして問題がない状態になったところで、俺はSNSやニュースサイトを確認していく。


「なんだこりゃあ……」

 確認して唖然とした。

 俺は気兼ねなく何かを殴れる場としてフルダイヴVRゲームを利用している。

 だから、一般的なゲーマーとは目的こそ異なるが、それでもゲーマーに分類される人間として、ゲーム関係の情報収集がスムーズに行えるように、各種情報源から様々な情報が送られてくるように色々とセッティングしている。

 そして、俺がセットした設定どおりに情報端末は情報を集めてくれていた。


 だが集まった情報は、『Scarlet(スカーレット) Coal(コール)-Meterra(メテラ)082』についての情報だけだった。


「いやいや、おかしいだろ、これ」

 おかしい。

 明らかにおかしい。

 俺は色々なゲームの情報を集めるように端末をセットしておいた。

 なのに、スコ82の情報しか入ってこないという時点でもうおかしい。

 他のゲームはどこ行った。

 なんで、どこの大手ニュースサイトもSNSのインフルエンサーも、スコ82が始まった、面白いからやってみてくれ、なんだよ。


「うわっ、完全に一色だ……。怖っ、此処までくると、逆にネガキャンだろ……」

 しかも、そうして投稿された内容を詳しく見ていくと、全部が賛美だ。

 否定的な意見が一切出てこない。

 普段なら大手の反対記事を絶対に書いてくるようなメディアまで賛美一色になってやがる。

 うわヤバい、あまりの気持ち悪さに鳥肌立ってきた。

 なんだよ、この異常事態。


「ひえっ……」

 だが異常事態はまだまだ続いている。

 まず国内のプロゲーマーチームたちが続々とスコ82への参戦を表明している。

 中には、ゴーレムの扱いに不慣れそうな連中も混ざっているし、ローグライクに馴染みがなさそうな連中だって居る。

 お前ら、本業と言うかメインにしているゲームはどうしたんだよ。

 いや、俺としては格闘ゲーム畑の連中と殴り合える機会が出来るかもしれないってことで嬉しくもあるが。


「実況者はまあいいか」

 次に有名なゲームの実況配信者たちのスコ82参加が目に入った。

 これはまだ分かるから、いい。

 やり方次第だが、それなりに取れ高はあるだろうから。


「いや、マジでおかしいだろ。いったいどうなってんだ」

 問題はその次で……ドラマだかバラエティだかで人気のある芸能人たちも参戦していたり、参加を勧めていることだ。

 いやいや、本当にナンダコレ。

 此処までくるともはや金の力だけじゃなくて、アカウントの乗っ取りや洗脳を疑う方が正常なレベルだろう。

 だが現実として、そんな状態になっている。


「ん? 待てよ? 国内でこれって事は……うわぁ……」

 しかし、これはまだ国内の話だ。

 俺は国外の記事にも目を通していく。

 結果は……俺の住む国よりも更に極端だと言ってよかった。


「アレか? 俺はログアウトと同時に異世界に飛ばされたとでもいうのか?」

 一部の国では何故か軍人がスカーレットコールに参加してる。

 政治情勢が不安定な国では、国がプレイヤーの安全を確保した上で仕事してやらせている。

 何千人も徴集してやらせている疑惑のある国もある。

 俺が探れる範囲でこれという事は、裏の方……犯罪組織の類でも業務としてプレイしている人間が居るかもしれない。

 どうやればこんな事が出来るのか。

 俺の頭では上層部がゲームの開発者に洗脳されているという、普通ならば妄想として一蹴されるというか、精神病院送りにされるような結論しか出てこないぞ。


「でもなぁ……窓から見える風景はいつも通りなんだよなぁ……なんか冷や汗出てきた……」

 恐ろしい。

 俺は素直にそう思った。

 スカーレットコールの開発者はいったい何者だ? 世界に何をした?

 流れてきた情報を見た限り、おかしくなっているのは政府の上層部、メディア、ゲーム関係者くらいのようだが、表面上おかしくなっていないから何処にも異常が生じていないなんて考えは、するべきでない思想だろう。


「とりあえずハンネ……春夏冬(あきない)にはリアルが面白い事になっているぞ、と送っておくか。ここまでイカれた状況だと、ネットワーク経由でネガティブな事は呟けねぇしな」

 俺はSNSでネガティブな事を呟きそうな連中の会話を覗き見てみる。

 そして、自分の警戒が正しかった事は理解した。

 リアルで何も起きていないといいんだが……。


「はぁ。しかし、此処まで極端だと、人心掌握や策謀に関しては素人なのかもしれないが、単純にスペックが違い過ぎて誰も対抗できない感じなんだろうな……」

 さて、此処からどうするか。

 いやまあ、俺は世界を陰謀から救うヒーロー様ではなく、殴りたいもの殴るだけのチンピラだからな。

 黒幕が許す範囲で好き勝手に動いて、その時が来れば俺にとって都合がいい方向で全力のダンスをすればいいか。

 何かを知った上で動くには、相手があまりにも強大過ぎるからな。


「とりあえず一回寝るか。休息をきちんと取らないと、殴れるものも殴れねぇ」

 俺はベッドで横になり、眠り始めた。

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